米国での雇用創出アピールと独自無線チップ断念のためか

アップル、米Broadcomと数十億ドル規模の契約。5Gなど無線部品を米国で製造・開発

Image:Ascannio/Shutterstock.com

アップルは現地時間23日、米国の無線およびインフラ向け半導体製造大手Broadcomと数十億ドル規模の契約を締結したことを発表した。この新たな提携により、Broadcomは5G無線周波数コンポーネントと最先端の無線接続コンポーネントを米国で開発・製造することになる。

すでにアップルは米コロラド州にあるBroadcomのFBARフィルタ製造施設において、1,100人以上の雇用を支援しているという。今回の提携により、Broadcomは重要な自動化プロジェクトへの投資と、技術者やエンジニアによるスキルアップを継続できるとのことだ。

これらの投資はアップルが2021年に表明した、5年間で4300億ドルを米国経済に投資する公約の一環でもあるという。現時点でアップルは米国のサプライヤーとの直接取引、データセンターへの投資、米国での設備投資、その他の国内支出を通じて目標を達成するペースにあるとのことだ。

アップルが米国経済への貢献を強調するのは、元トランプ大統領時代にまでさかのぼる。まず2018年に「アップルは米国の投資と雇用創出を加速」と題したプレスリリースで5年間にわたり3500億ドルの直接的な貢献をしていくと述べ、2019年には全米で約9,000社のサプライヤーと提携して45万人の雇用を創出したとアピールしていた。主な製造拠点を中国に置いている同社は、米中間の緊張関係から影響を受けやすく、それをかわす狙いもありそうだ。

もう1つ興味深いのは、アップルがしばらくはBroadcomの供給する無線関連チップに依存し続ける、と述べているも同然ということだ。

今年初めにアップルは、Wi-FiとBluetoothを統合したチップを開発中であり、2025年にはBroadcom製ワイヤレスコンポーネントの使用を止めるとBloombergが報じていた。同社は独自の5Gモデムチップも開発中と噂されており、主要チップはすべて自社設計に置き換える方針とみられていることから、「Broadcom離れ」も自然な展開と思われた。

だが、その後に著名アナリストMing-Chi Kuo氏は、独自Wi-Fiチップの開発は現時点で中止されており、しばらく保留されると述べている。Wi-Fi+Bluetooth統合チップは開発難易度が高く、またiPhoneやMac用プロセッサー開発を最優先にする必要があるためだという。

2019年当時、Broadcomがワイヤレスチップ部門の一部を売却することを検討しており、買い手の候補にアップルが挙がっているとの報道もあった。結局Broadcomは売却しなかったが、アップルはインテルのスマートフォンモデム事業を買収しており、そちらも実際にあり得た展開なのだろう。

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