中国侵攻の可能性が高い2027年まであと3年
TSMC会長、iPhone向けチップ工場の台湾外移転は「不可能」と発言
中国による台湾侵攻への懸念が高まっているなか、半導体製造大手TSMCの魏哲家会長は製造工場を島外(台湾国外)に移転することを「一部の顧客」と協議しているが、それは不可能だと語っている。
アップルやクアルコム、NVIDIAといった米ハイテク大手は、チップの製造をTSMCに委託している。つまり米スマートフォンやAI産業にとって、中国による侵攻リスクは死活問題となっているわけだ。
そうした懸念が本格的に高まったのは、まず2022年8月にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した直後のこと。中国軍は台湾を取り囲むように大規模軍事演習を行い、日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイルが着弾した一幕もあった。
そして昨年3月、中国の習近平国家主席は、人民解放軍の創設100周年にあたる2027年までに「世界クラスの軍隊」の構築を目指す計画を発表。これを受けて米統合参謀本部議長(当時)マーク・ミリー氏は、中国政府が同年までに台湾侵攻の準備を整えようとしている可能性があると指摘していた。
さらに先月、台湾の新総統、頼清徳氏が就任演説を行った後、中国は台湾周辺の空と海で軍事演習を23日~24日にかけて実施。米軍の高官は「(侵攻に向けた)リハーサルのようだった」と評していた。
そうした最新情勢のなか、魏氏は年次株主総会にて、生産能力の80~90%が台湾にあることを考えると、チップ工場を島外に移転することは不可能だと発言。「台湾海峡の不安定化は確かにサプライチェーンに関して考慮すべきこと」としつつ、戦争が起こることを望んでいないとも述べている。
移転につき協議した顧客の名前は挙げていないが、アップルがその1社であることは間違いない。同社はTSMCの総売上の内、約半分を占めている。
その一方で、中国が侵攻した場合に備えて、TSMCがチップ製造施設を使用不能にする対策を講じていることは、先日もお伝えした。また米政府関係者の一部も、中国にチップ工場を渡さないため、爆撃して破壊するシナリオを検討しているとの報道もあった。
iPhone搭載のAシリーズチップとMac/iPad向けMシリーズは100%TSMC製であり、同社とアップルは運命をともにしていると言っていい。TSMCが米国内にチップ製造工場を建設し、米政府が巨額の補助金を出しているのも、そうした事情が視野に入っているのだろう。