「儲けすぎた分は返納」と「内部情報を提供」の2つが度しがたいとのこと

TSMC、米アリゾナ工場建設につき米政府に補助金の倍増を要求か

Image:Vidpen/Shutterstock.com

アップル独自開発チップの製造を独占的に引き受ける台湾TSMCが、米アリゾナ州に半導体工場を2つ建設中であることは以前もお伝えした。しかし、同社は米国政府に工場建設向け補助金の倍増を求めつつも、いくつか「受け入れがたい」条件を突きつけられたと報じられている。

昨年、米国は国内での半導体製造能力を強化するために「CHIPS法」を成立させ、半導体工場を建設する企業に520億ドル以上の補助金を支給する方針を推進している。TSMCもCHIPS法のもとで、70-80億ドル相当の税額控除が見込まれていたが、その後に情勢が変わったようだ。

米The Wall Street Journal報道によると、TSMCは米政府に対してアリゾナ州の2工場につき60億~70億ドルの補助金を申請することを検討しているという。つまりインセンティブは合計で約150億ドル、当初の倍になる形だが、それに加えてCHIPS法に伴ういくつかの条件を免除することを求めているとのことだ。

TSMCがアリゾナ州に半導体工場を建設する計画を発表したのは、2020年のことだ 。当初の投資額は120億ドルであり、現地のサプライチェーンを含めて1,600人の米国人雇用が創出されるとされていた。

が、しばらく後に同社が米政府に巨額の補助金を求めていることが明らかになった。具体的には台湾よりも割高となる操業コストの差を補てんしてほしい、というものだ。アップルもTSMCの代理でロビー活動を行い、補助金獲得を助けたとの報道もあった

この補助金はCHIPS法の下で支払われることになったが、今回TSMCが「受け入れがたい」としているのはそれに付随する条項だ。

同法律は1億5,000万ドル以上の補助金を受ける半導体メーカーは、投資収益が予測を上回った場合、超過分を返納することを義務づけている。さらに操業に関する詳細な情報の提供を求められることもありうるため、TSMCは難色を示しているという。

この分野においては米商務省の裁量の幅が大きく、例外的に超過金の返納も免除できる。同省は、その条件は「ケースバイケースで設定される」との見解を示しており、TSMCと交渉の余地はあるのだろう。

これと似た揉めごとは、かつてiPhoneの組み立てを担当するFoxconnと米国政府の間にもあった。2017年、同社は米ウィスコンシン州に100億ドルを投じて液晶パネル工場を建設する計画を発表。このとき「最終的に1万3,000人の雇用を創出する」と宣言し、当時のトランプ大統領からは米国の製造業を復活させる象徴として賞賛されていた。

その際ウィスコンシン州は30億ドルの補助金を約束したが、Foxconnはさらに10億ドルを追加で要求。しかし、実際には工場は建設されなかった。同社は液晶パネル製造に重きを置かず「技術拠点」を創設したいとの意向を表明し、最終的には178人の雇用を創出するに留まった。

当時のFoxconn CEOの特別補佐をつとめたLousi Woo氏は、工場建設を「再検討」した理由の1つは米国の人件費の高さだと発言。液晶パネルを中国と日本で生産し、メキシコで組み立て、完成品を米国に輸入する方が利益率が高いと述べていた

このまま米政府とTSMCの間で条件の折り合いがつけられなければ、Foxconnのように工場用地の造成まで行い、巨額の補助金も支払われたが、工場建設も雇用創出も計画倒れになりかねない。そもそも米国で製造業を復活させることに無理があるといえばそれまでだが、今後の展開を見守りたいところだ。

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