米中関係がさらに緊張の懸念もあり

TSMC、米政府から「巨額の補助金」を工場建設に獲得。将来的に2nmや最先端チップ製造

Image:Vidpen/Shutterstock.com

米商務省は世界最大手ファウンダリー(半導体受託製造)TSMCに対して、アリゾナ州での第3工場建設につき、最大66億ドルの資金提供と最大50億ドルの融資を行う契約に署名したと発表した。

厳密にはTSMCの米国子会社TSMCアリゾナを対象としており、CHIPS法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)に基づくもの。米中間の地政学的緊張が高まるなか、半導体の国内供給を強化する戦略の一環である。

TSMCの発表によると、第1工場は2025年前半に4nmチップ生産を開始し、第2工場は2028年から3nmと2nmのチップを製造。そして第3工場は2030年までに2nmチップや、さらに高度なチップ製造を目指すとのことだ。

これらプロジェクトを通じた投資の合計は、650億ドル以上。同社は声明で、今回の投資は外国企業による米国でのグリーンフィールドプロジェクト(現地に子会社を設立し、ゼロから事業を構築する)への直接投資としては過去最大規模になると述べている。

TSMCアリゾナは、AMD、アップル、NVIDIA、クアルコムを含む米大手企業にチップを販売予定。3つの工場を合わせて約6000人の直接雇用と、2万人以上の建設関連雇用が創出される見通しだ。

もともとCHIPS法は米国企業を優先する傾向があり、総額520億ドル以上のうち、3分の1近くをインテルが獲得している。そのためTSMC創業者も「米政府による米国内チップ産業の再建は失敗する」と発言した一幕もあった

しかし、米ハイテク大手のほとんどがTSMCに大きく依存している現状は変えがたい。もし中国が台湾に侵攻すれば、米軍がTSMCを爆撃するシナリオもあり得るとの報道もあったが、同社が世界の最先端チップの約90%を製造している元では非現実的だろう。またインテルもTSMCの技術に追いつこうとしているものの、その差はまだ埋めがたくはある。

今回の資金援助は、インテルが獲得した最大85億ドルの補助金には及ばないが、それでも巨額には違いない。米政府としても、TSMCの製造能力を失うわけにはいかず、背に腹はかえられないのだろう。

ちなみにアップルの最先端チップは、現在TSMCの3nmプロセスにより台湾で製造されている。これらのチップやさらに高性能なチップが米国内で製造できるようになれば、同社のサプライチェーンにとって大きな転換点となりそうだ。

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