CHIPS法による補助金の配分が不公平との抗議も

TSMC創業者、「米政府による米国内チップ産業の再建は失敗する」と発言。「シリコンの盾」を意識か

Image:Sundry Photography/Shutterstock.com

中国の習近平総書記(国家主席)が異例の3期目に突入するとともに台湾統一を公約、「決して武力行使の放棄を約束しない」と宣言したことで、台湾侵攻のリスクが日増しに高まっている。

そこで微妙な立場に置かれているのが、台湾に拠点を置く世界最大手ファウンダリー(半導体の受託製造業)TSMCである。米国政府は「TSMCごと台湾を守る」と「TSMCの喪失に備えて、国内の半導体産業を再建する」の間で揺れており、中国にTSMCの半導体製造施設を渡すぐらいなら米軍が爆撃した方が望ましいとの極論も上がっているとの説もある

そんななか、TSMCの創業者モリス・チャン(張忠謀)氏が、「国内チップ製造業の再建を目指す米政府の努力は失敗する運命にある」と発言したと報じられている。

TSMCの原点は1985年、米テキサス・インスツルメント社等で半導体事業を率いていたチャン氏が、台湾政府に電子産業育成のため招かれたことである。1987年に設立された同社は、今や世界のウェハー製造の約20%、最先端チップ生産能力の約92%を擁する世界トップのチップメーカーに成長を遂げた。

かたや米国のチップ製造における全世界シェアは、1990年の37%から2020年には12%に転落している。そのため米政府内には再び半導体産業での優位を取り戻す狙いと、台湾に依存することで防衛産業向けのチップ供給が危うくなる懸念が浮上した。

これを受けて米バイデン大統領は今年8月、CHIPS法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)に署名した。中国との半導体競争を強化するために520億ドル以上を投じるものだが、その3分の1近くを米インテルが獲得するなど、明らかに「台湾抜き」の意識が透けて見える。

この動きは、半導体の優位性を「シリコンの盾」すなわち自国を守る手段の1つと見る台湾にとっては望ましいことではない。台湾政府関係者は、もし中国が攻めてきたら米国が助けに駆けつけ、産業の掌握を防いでくれるとの見通しをたびたび述べてきた。米国の台湾チップ産業への依存が減れば、「シリコンの盾」も薄くなるわけだ。

さて英Financial Timesによると、ペロシ米下院議長が8月に台湾を訪問したさい、TSMCのチャン氏とマーク・リウ(劉徳音)会長に会ったという。その場でチャン氏は、チップ製造を再建しようとする米国の努力は失敗する運命にあると述べたとのことだ。

実際、米国にはそれほど選択肢が残されていないのかもしれない。スイスの金融大手クレディ・スイスのアナリストは、台湾からの全世界へのチップ供給が止まれば、コンピューターから自動車まであらゆる生産に支障が出ると推定している。もちろん、iPhoneやMacのチップ製造をTSMCに全面的に依存しているアップルも大きな影響を受けるだろう。

また米シンクタンク・ランド研究所のブラッド・マーティン氏は、「半導体生産の独占は不安定性を生む」と指摘。「米国が自国の経済を守るか、台湾を守るかの決断を迫られた場合、それは非常に厳しい決断になり始める」とのことだ。。

TSMCは、米アリゾナ州に120億ドル以上を投じて半導体工場の建設を進めており、2024年初頭に生産を始める見通しだ。が、上記のCHIPS法ではTSMCやサムスンなど本社が米国外にある企業に支給されるかどうかは不透明なままだ。もし補助金がなければ、稼働後に利益を出すのは難しいとの見方すらある。現実を直視すれば、米政府はTSMCも“公平”に扱う必要に迫られそうだ。

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