しかも長期的にはArmからRISC-Vに乗り換える可能性

アップル、Armに44円/台しかライセンス料を支払わず? 孫正義氏も値上げ交渉失敗か

Image:Ascannio/Shutterstock.com

日本のソフトバンク・グループは、米シェアハウス大手ウィーワークの破綻で巨額の損失を出しているが、その一方で子会社である英Armホールディングスの株式再上場が大きな注目を集めた。そしてArmは、アップルとiPhoneやMacに搭載するチップの基礎技術につきライセンス契約を締結しており、巨額の収入を得ていると見られていた。

だが、Armがアップルから得ているライセンス料は売上高の5%未満であり、1台あたり0.3ドル(約44円)以下だとニュースメディアThe Informationが報じている。

同誌の記事によると、アップルからの収入は上位2社であるクアルコムとMediaTekの約半分に過ぎないという。

iPhone 15 Proモデルに搭載されたA17 Proチップは、製造コストが130ドルと見積もられている。昨年のA16より27%上昇してはいるが、その一方でクアルコムのSnapdragon 8 Gen 2、すなわち昨年のAndroid向けハイエンドチップは160ドルに上るとの証言もある。

クアルコム製チップは他社に販売するため利益を上乗せされるのに対し、アップルは自社製品に載せるのみのため単純な比較はできない。だが、A17 Proは他社より高度(よってコストの高い)な3nmプロセスで製造されていることから、Armに支払うライセンス料が安く抑えられているとすれば辻褄はあう。

そこでソフトバンクGの孫正義会長兼社長は、アップルにライセンス料の増額を迫ったものの、交渉に失敗したという。

ある時、孫氏はアップルのティム・クックCEOに電話をかけ、Armが主要なスマートフォンやチップの顧客すべてにライセンス料を値上げすると伝えたとのこと。しかし、クック氏のチームは上司にArmとの契約が2028年まで有効であり、料金を値上げすることはできないと保証。結局、孫氏は引き下がったという。

それ以降もArmはアップルとの交渉を何度も重ねているが、支払い条件は守られたままだと事情に詳しい匿名筋は語っている。今年9月に明らかになった「長期契約」は2040年を超えると報じられていたが、契約条件は変えられなかったのかもしれない。

さらにThe Informationは、アップルが「Arm後」の展開も考えていると述べている。すなわち「自社のデバイス用チップに競合技術を採用する可能性を、長期的に探っている」とのことだ。

これはおそらく、ライセンスフリーのRISC-V技術を指していると思われる。数年前にも、アップルがRISC-Vのプログラマーを募集する求人情報を出していたことがある。

もっとも、ArmアーキテクチャからRISC-Vへの移行は、今後何年もかかることだろう。Armや孫氏にとっては、うま味の薄い契約が当分は続きそうではある。

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