中国はセーフティネットが貧弱なこともあり

中国のゼロコロナ撤回、アップルにも大きな打撃に

Image:nui7711/Shutterstock.com

ここ数年にわたった中国のゼロコロナ政策は、現地に生産拠点を置くアップルを大いに悩ませてきた。上海でのロックダウンはMacBook Proの生産を直撃し、最大のiPhone組立工場での感染拡大によりiPhone 14 Proモデルの納期が遅延する、という具合である。

しかし中国政府は、大規模な抗議デモがきっかけで、突如としてゼロコロナ政策の大半を解除した。そのために全国で感染流行が発生しているが、アップルのビジネスも大きな脅威にさらされているとの分析が報じられている。

英Financial Timesによると、サプライチェーンの専門家は、iPhoneの生産が数ヶ月にわたって中断するリスクが高まっていると警告しているとのことだ。中国政府の急激な方針転換により、中国全土の部品工場や組立工場で労働者が不足する、より長期的なリスクの可能性が迫っているという。

たとえばサプライチェーン管理システムを提供するResilincのCEOは「工場だけでなく、倉庫、流通、物流、輸送施設など、多くの業務が欠勤の影響を受けるはず」と述べている。同社は300万個以上の部品を追跡するサプライチェーンのマッピングサービスを提供しているだけに、かなり説得力は高い。

アップルは11月初め、新型コロナ禍により生産を縮小しているため、iPhone 14 Proモデルを発注した人々に「待ち時間が長くなる」ことを警告していた。同社の経営陣が今後の売上高について控えめな見通しを述べてから約10日後の、異例の声明だった。

そして年末商戦期を含む今四半期には、iPhone 14 Proモデルの出荷台数は市場予想より1500~2000万台も少なくなり、その間に失われた需要は取り戻せないとの予測もあった。それでも、一方では需要はキャンセルされるのではなく「延期」されるだけとして、その後の6ヶ月間の予測を引き上げていたアナリストも多かったのである。

しかし、中国で厳しいゼロコロナ対策が転換されたあと、100万人の中国人が冬の間に死亡する可能性が試算され、さらにアップルの収益に対するリスクが高まった。北京市内の繁華街にあるアップル直営店は、従業員が体調を崩したため営業時間を短縮したとも報道されている。

アップルの収益の5分の1は中国市場から来ている一方、iPhoneは90%以上も現地で組み立てられている。つまり需要と供給の両面で、ゼロコロナ政策の撤回による脅威にさらされているわけだ。

コンサルタント会社Asymcoの独立アナリスト、ホレス・デディウ氏は、中国での新型コロナ感染拡大が、他の国よりもアップルの売上を直撃する可能性が高いと指摘している。

「世界の残りの部分はロックダウンの間に需要が上昇したが、それは在宅勤務と景気刺激策によるものだった」一方、中国は「免疫力が低く、セーフティネット(訳注:失業保険制度など)が最小限であるため、中国の消費者は身を縮めて来年の大きな買い物を避けるかもしれない」とのことだ。

アップルは製造拠点をインドなどに移転し、中国依存を脱却する動きを加速している。しかし、市場としての中国は移転しようがなく、しばらく冬の時代を耐えることになるのかもしれない。

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