そこに画面があるから…

トラクターの画面で『DOOM』動作。畑で戦う特別バージョン

Image:Sick.Codes/Twitter

米ラスベガスで先週開催された国際的なハッキングに関するカンファレンス「DEF CON 30」では、ジョンディアのAIスマートトラクターが搭載するタッチパネルを “脱獄(Jailbreak)” 、わかりやすくいえばハッキングして自由に機能にアクセスできるようにした事例が報告された。いまやトラクターですらAIを搭載し、そこにはコンピューターとUIになるディスプレイが搭載されているということだ。

そしてハッキング界隈では、そこにコンピューターとディスプレイがあれば、必ずだれかがやるのが古典的FPSゲーム『DOOM』を動かすこと。そう、この脱獄ジョンディアも、やはりDOOMの洗礼を受けてしまった。

DEF CONでジョンディア製トラクターの脱獄を発表したSick.Codes氏は8月15日、タブレットのような画面上に、半透明に表示されたDOOMが動作している動画をツイートし、「(脱獄/管理者権限を得た)ジョンディア製トラクターのディスプレイでDOOMをプレイしている」とメッセージを添えた。

背後に元のトラクターの操作画面と、さらにコマンドプロンプトが透過表示されているためくっきりした映像ではないが、目を凝らしてみてみれば、たしかにDOOMらしきグラフィックが動いている。

動画をよく見てみれば、何が違っているのかがわかるだろう。そう、DOOMのプレイヤーキャラ “Doomguy(ドゥームガイ)” が、銃ではなくジョンディアのハンドルを手に握りしめているのだ。そして迫り来る怪物を撃ち倒すのではなく、トラクターで轢き殺していく…。さらに戦いの舞台は火星ではなく、トラクターの日常的な風景である、トウモロコシ畑だ。

Sick.Codes氏によると、これを実現するために、数か月もの時間を擁したとのことだ。最初の手間は、この「John Deere 4240」トラクターで使用されているシステムを脱獄させること。そのために必要な改造もトラクターに施した。そして脱獄したLinuxシステム上にDOOMをインストールし、実際に動かしている。

実用的な部分の話をすれば、トラクターのソフトウェアを外部のユーザーが触れないようにするのは、安全を維持するためという側面もある。農機具とはいえそのガタイは重機とそう変わらず、暴走すれば非常に危険だ。また盗難などの被害に遭った際、遠隔でシステムをロックすることで悪用も回避できる。ただしシステムの保護が強固すぎると、かんたんな修理作業もできなくなってしまい、これまで自ら修理して時間と出費を節約していた農家にとっては面倒な話になる。

そこで2年程前から米国の各州議会などは、市販の電子機器を修理できるようにする「修理の権利」法案の整備を進めており、消費者が修理できるようにする環境が整いつつある。ジョンディアも、そうした流れに沿って、以前はできなかった独立の修理工場でシステムを修理可能にできるよう取り組んでいるという。

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