農機具は修理が大変

トラクターのOSを“脱獄”する方法が公開。農機具でも「修理する権利」加速

Image:ArliftAtoz2205/Shutterstock.com

今や世界中の農家に「スマート農機」が普及しており、衛星情報に基づいて自動走行したり、肥料や農薬の散布量も細かく管理できるようになった。が、それらの修理はメーカー独自の診断ソフトウェアや機器が必須であり、農家は自前で修理できない。その制約をかいくぐるため、システムの制御を取り戻す “脱獄” に関心が集まっている。

そうしたトラクターのうち、ジョンディア(米ディア・アンド・カンパニーのブランド)製品の複数モデルを制御できる脱獄方法が、世界最大のセキュリティー会議「DEF CON」にて発表された。

米国では、今年初めにバイデン大統領が「修復する権利」への支持を表明したことが注目を集めた。修復する権利とは、ユーザーが自ら選んだ方法で、主にメーカー非公認の修理業者に持ち込んで購入した製品を修理できる権利のこと。特に農家にとっては切実な問題であり、バイデン氏も「スマートフォンからトラクターまで」と農機具を強調していた。

また、上記の “脱獄” (Jailbreak)とは、メーカーが制限した操作を可能にする行為のこと。一般的にはiPhoneにつき、App Storeでは配布されないアップル非公認のアプリを入れるための抜け道として知られている。その言葉が一見するとスマートフォンからかけ離れた、トラクターにも使われているわけだ。

さて今回の発端は、アジア在住でオーストラリア人のハッカーSick.Codes氏が、2021年のDEF CONでトラクターのOSなどの脆弱性を公表したことだった。

その後にジョンディアほかトラクター各社はバグの一部を修正したため、修復する権利サイドから、抗議の声が上がったという。そこでSick.Codes氏は、農家の人たちがデバイスをroot化(あらゆる操作ができる権限の取得)できることを証明しようと考えたそうだ。

そのためにSick.Codes氏は、ジョンディア製トラクターのタッチパネルを何世代分も入手。その後、広く普及している「2630」や「4240」などに焦点を絞り込んだ。何か月もかけて多くのタッチパネル回路基板で実験を行い、ついに認証ディーラーだけに許された、デバイス復元用の再起動チェックにこぎ着けたそうだ。

さらに、認定サービスプロバイダーの診断用に1.5GB以上のログが提供されることも発見。このログから、より深い部分にアクセスする道筋も明らかとなり、最終的にはコントローラを回路基板に直接ハンダ付けし、デジタルロックを迂回できたと語っている。

この方法ではハードウェアの改造が必要だが、Sick.Codes氏はより簡単に脱獄できるよう、脆弱性に基づいた(ソフトウェア的な)ツールの開発は可能だろうという。また、ジョンディア側がどのように反応するか興味があるとも付け加えている。もっともWIREDの取材に対して、ジョンディアはコメントを寄せていない。

「農家が古い機器を好むのは、単に信頼性を求めているからです。1年のうちで最も重要な時期に、地面から作物を刈り取るべきときに、不具合が起こるのは嫌なのです」とSick.Codes氏は語る。「それはトラクターのソフトウェアを修理したり、制御できることを意味するのです」とも付け加えている。

iPhoneやスマートフォンの場合は修理に持ち込んだり、買い替えることも難しくはない。しかし農機具は正規代理店の修理代金は高くて待ち時間も長く、そもそも正規代理店が近くにあるとも限らない(欧米では農機代理店の合併が進んでいるため、数が減っている事情もある)。故障したまま動かせなければ死活問題にもなりうる。今回の報告は、ハッカーコミュニティ内でも「修復する権利」運動を加速させるのかもしれない。

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