従来の量子プロセッサーは大規模になると誤りも増加していました

Google、新型量子プロセッサー「Willow」発表。量子誤り訂正に画期的技術

Image:Google

Googleは、現在の世界最速のスーパーコンピューターでも10杼(じょ:10の25乗)年かかる問題を、5分未満で回答できるという量子プロセッサー「Willow」を発表した。カリフォルニア州サンタバーバラにあるGoogle量子AI研究所の研究者らは、量子システムにおける誤り訂正の重要な課題を解決したと述べている。

これまでの常識では、量子コンピューターシステムで使用する量子ビットの数が増えれば増えるほど誤り、つまりエラーが発生しやすくなっていた。しかしGoogleは、量子ビットを物理的に複数用意し、それを組み合わせて論理的なひとつの量子ビットとすることで誤り訂正を可能とする。「このしくみの規模を大きくしていくことで、誤り訂正の精度も上がり、量子ビット演算全体の精度が上がっていくことが期待される」とGoogleの研究者マイケル・ニューマン氏は述べた。

量子ビット演算の精度が十分に高ければ、システムが大きくなるにつれて、物理的な量子ビットのグループも大きくすることができる。Google量子AI研究所のハルトムート・ネーヴェン所長は、これは「30年来」追求してきた重要な課題を解決する大きな「突破口」になったと述べている。

ただそれでも、実際に役立つ量子コンピューターを構築するためには、エラー率をさらに引き下げる必要があるとGoogleは付け加えた。学術誌Natureに掲載された研究論文の中で、Gogoleの研究者らは「多くのプラットフォームが量子エラー訂正のさまざまな特徴を実証してきたが、しきい値以下の性能を明確に示した量子プロセッサーはない」としている。

Googleが2013年に発表した量子プロセッサー「Sycamore」は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の共有クリーンルームで製造されたが、Willowはこのチップのために新たに建設された専用ラボで製造された。

「超伝導量子ビットの動作時間は数十ナノ~数百ナノ秒と高速であるため、速度の面では有利ではあるものの、同時にエラーを迅速かつ正確に解読しなければならないという課題もある」「Willowのエラー訂正能力の鍵は、チップ内の改良された量子ビットにある」とGoogleの研究者は説明会で述べ、この改良を行うことができた要素のひとつとして、Sycamoreの設計における良いところを受け継ぎつつ、再設計された内部回路による処理時間の短縮を可能にする優れた製造技術を挙げている。

Google量子AI研究所の最高執行責任者(COO)であるチャリーナ・チョウ氏は次の課題として、古典的なコンピューターでは現実的に不可能な性能を、実世界に影響を与えるアプリケーションで示すことに取り組んでいることを明かし、「本格的な量子エラー訂正が実現する前のNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)時代では、まだ誰もこれを実証していない」と述べた。これはマイクロソフトやIBM、Amazonをはじめとする、量子コンピューティングを研究する他の企業も追求している目標であり、GoogleはWillowがその実現に向けた一歩になることを期待している。

ちなみに12月5日には、英オックスフォード大学と大阪大学の研究チームが「トラップイオン」と呼ばれる方式による量子ビットのエラー発生率が100万分の1以下と非常に低いことを示す論文を発表した。これは、Googleのものを含め、多くの量子コンピューターが極低温環境を必要とするのに対し、室温環境で動作する量子コンピューターを作ろうとする、異なる方式の量子コンピューター実現に向けた研究成果となっている。

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