両方の機嫌を取るのは難しそう

台湾TSMC、米中間で中立を保つ「半導体版スイス」は困難か

Image:Sundry Photography/Shutterstock.com

半導体製造受託の最大手である台湾TSMCは、米中の緊張が高まるにつれ、中立を保つことが難しくなっているとニュースメディアThe Informationが報じている。

TSMCはiPhoneやiPad、Mac向けのプロセッサーを製造している。2014年にiPhone 6/6 PlusにA8チップが採用されて以降、アップルは同社にとって主要な顧客となっている。また近年では、最先端AIチップやGPUをけん引するNVIDIAも、TSMCの収益において大きなウェイトを占めつつある。

しかし、近年の米政府はTSMCに対して、中国企業との取引を制限するよう圧力を強めつつある。今年10月にも、米商務省がTSMCによる制裁違反の可能性につき調査を開始していた。中国ファーウェイのAIチップ「Ascend 910B」内部に同社の半導体が使われていた事実を受けてのことだ。

問題となっている制裁措置の1つは、2020年にファーウェイが米国企業製の部品を事前の承認なしに入手することを禁じた規制である。さらに米政府は2022年に、中国へのAIチップの輸出を厳しく制限する措置を追加している。

TSMCの匿名幹部は、同社は中立の立場を守りたいと望み、「半導体版スイス」として行動しているという。だが、そう振る舞うことはますます難しくなっている。

上記の制裁違反の可能性につき、TSMCは数週間にわたり、中国顧客に関する内部調査を行い、疑わしい注文を特定しようと試みたと伝えられている、さらに疑わしいチップを顧客に供給することを止めた上に、疑わしいウェハーを破棄するに至ったとのことだ。

その一方で、TSMCは中国との関係悪化も懸念しているという。同社は中国で2つの工場を運営しており、そこでは中国国内の多くの顧客向けチップを製造している。もしも中国政府が介入すれば、TSMCの収益と半導体業界全体に長期的な影響が及ぶ可能性が高い。

米政府の調査について中国当局から尋ねられたTSMCは、米国が主導権を握っていると伝えたと、The Informationの情報筋は語っている。が、米規制当局が要求したことだけ行い、それ以上のことはしないと中国に保証したという。

TSMCの収益の65%は米ハイテク大手、もっぱらアップルとNvidiaから来ているため、米政府の要求には従わざるを得ない。同社は、疑わしい顧客を特定することがいかに困難かを証明して、高額な罰金を避けるつもりだという。また、あらゆる調査に協力して、米国へのコミットメントを示す構えだと伝えられている。

実際、米商務省に進んで協力することで、寛容な扱いが受けられる可能性もあると専門家は語っている。「TSMCとBIS(産業安全保障局)の協力の度合いにより、同社が違反の疑いをかけられている場合、その後の処罰の程度や有無に大きな違いが生じるかもしれない」とのことだ。

もともとTSMCは、米TI等で半導体事業を率いていた創業者のモリス・チャン氏が、台湾政府に電子産業育成のため招かれたことが原点だ。いわば国策企業の側面もあり、半導体産業の中核を担うことで米中から距離を取る狙いもうかがえるが、思惑通りにはいかないようだ。

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