その後のキャリアを犠牲にするリスク高し
中国ファーウェイ、チップ製造強化のため3倍の報酬を提示してTSMC人材を引き抜きか
中国通信機器大手ファーウェイと半導体受託製造大手のSMICは、次期ハイエンドスマートフォン向け5nmチップの量産に成功したとの報道もあった。だが、米政府の圧力により最先端の半導体製造装置を入手できなくなり、旧式のDUV(深紫外線)露光装置を使わざるを得ない状況のもと、これ以上のプロセス微細化を進めることは困難になりつつある。
その逆風のなか、ファーウェイが台湾TSMCのエンジニアを、現在の報酬の3倍という給与を提示して引き抜こうとしていると、仏メディアのル・モンドが報じている。
たとえば43歳の台湾人女性は、そうした転職の打診メールが、少なくとも3か月ごとに届いているという。「新しいチャンスを探してみませんか?」「あなたのような経験を持つ人を探しています」と決まり文句が書かれたものは、ファーウェイが委託した人材紹介会社から送られてきたとのことだ。
非常に魅力的なオファーながらも、「台湾海峡の反対側」(ファーウェイ)に行けば、将来に大きなリスクが待つ可能性が高い。つまり、二度と台湾や米国の企業に雇われなくなり、さらには台湾の司法調査局にマークされることだ。同局は捜査を強化しており、実際にデータ分析企業を装う企業がマイクロチップ関連の人材を採用し、3倍の給与と引き換えに企業秘密を盗み出すケースもあったという。
さらに、もしも元TSMCの従業員がファーウェイに採用されたとしても、待遇がどの程度になるのかは確認されていない。一時的に給与が3倍になったとしても、それ以外の労働条件を知る術はなく、過労で使いつぶされてしまうことや、昨年7月に施行された改正反スパイ法により拘束される可能性がある。
上記の女性は、「私は決して(勧誘メールに対して)返事をしない」と述べている。最近は中国の富裕層やミドルクラスが経済の先行き不安、強権的な統治への失望から国外脱出が加速しているとの報道もあっただけに、金銭的な報酬だけで台湾の人材を取り込むのは難しいのかもしれない。