Oryonを開発したNuvia買収が対立の始まり

Arm、クアルコムにライセンス取り消しを通告。Androidスマホに影響する恐れも

Image:Ascannio/Shutterstock.com

英Armが長年にわたるパートナーである米クアルコムに対して、自社の知的財産権を使ったチップ設計を許可する、いわゆるアーキテクチャライセンスを取り消す方向で動いていると報じられている。

Bloombergが確認した文書によると、Armはアーキテクチャライセンス契約の取り消しにつき義務付けられている60日前の通告を実施したという。このライセンス契約に基づき、クアルコムはArmの技術を用いつつ独自チップの開発が可能となっていた。

おりしもクアルコムは、ハイエンド向けモバイルチップ「Snapdragon 8 Elite」を発表したばかりだ。この最新チップセットは長年使ってきたArm CortexをベースとしたKyro CPUコアに代えて、第2世代のOryon CPUコアを採用している。

なお、OryonはArmコアではないが、Armの命令セットを使っており、ライセンス料も支払っている。Windows PC向けのSnapdragon Xシリーズチップも、第1世代Oryonコアを搭載している。

クアルコムはArmアーキテクチャに基づくプロセッサーを年間数億個も販売しており、それらは大半のAndroidスマートフォンに搭載されている。もしもライセンスが取り消された場合、同社は収益の大部分を占める製品の販売を停止しなければならず、さもなくば巨額の損害賠償請求に直面する恐れもある。

両社の争いは、2021年にクアルコムがチップ設計の新興企業Nuviaを買収したことを受け、2022年にArmがクアルコムを提訴したことに端を発している。そもそもOryonはNuviaがArmのアーキテクチャライセンスとテクノロジーライセンスの元で開発したものであり、クアルコムはそれを入手するため会社ごと買収した経緯がある。

Arm側は、クアルコムがNuviaを買収した後、新たなライセンス契約の交渉に応じなかったと主張している。買収前に設計されたNuviaは他社に譲渡不可能であるため、クアルコムは破棄すべきだというわけだ。対してクアルコム側は、自社がカスタム設計のCPUもカバーする幅広いライセンスを保有していると主張しており、どちらも現在まで立場を変えていない。

今回の報道につき、クアルコムは複数のメディアに声明を発表。「これはARMの常套手段であり、長年のパートナーを脅迫し、当社の性能をリードするCPUの妨害を企て、アーキテクチャライセンスに基づく広範な権利に関係なくロイヤリティ率を引き上げようとする、根拠のない恫喝だ。12月に裁判が迫る中、Armの必死の策略は法的手続きを妨害しようとする試みのようで、契約解除の主張は完全に根拠がない」と述べている。

クアルコムにとって法廷闘争は慣れたものであり、あらゆる法的な手段を講じるはずだ。しかし、Armがライセンス取り消し通知をクアルコムに送った時期がSnapdragon Summit 2024の真っ最中だったことは、冷や水をかける意図があったのかもしれない。

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