【防災月間】ポータブル電源特集

ポータブル電源を「安全に」使う・保管する・処分する方法とは?防災安全協会に聞く“正しい扱い方“

Gadget Gate

災害への備えとして、ポータブル電源へのニーズが年々高まりつつある。しかし災害用としてポータブル電源を考えたとき、どのようなことを気にすればよいのだろうか。

前編では、災害用としておすすめできるポータブル電源を「防災製品等推奨品マーク」を認証して案内している、一般社団法人防災安全協会 事務局長の水口健氏から、ポータブル電源を選ぶポイントや、そもそも災害時にポータブル電源が必要な理由などを伺った。

後編となる本記事では、ポータブル電源を安全に使うための方法や保管方法をはじめ、最終的な処分についても水口氏から話を聞いた。

一般社団法人防災安全協会 事務局長 水口健氏

ポータブル電源の誤った使い方で起こる問題、安全に使うポイント

ーーポータブル電源は使い方によって危険だと聞きます。どのような扱い方をすると良くないのでしょうか?

ポータブル電源に使われているリチウムイオン電池は、高温下や炎天下に置くことで、発熱、発煙、発火の可能性があります。特に就寝時の充電が危険で、このときに発火してしまうと火災になった際、家屋の焼失も心配です。

だから、アウトドアで使う際には注意が必要です。直射日光が当たると高温になりますし、そもそも浜辺で電気製品を使うのも気をつけなければなりません。急に雨が降る可能性もありますよね。そして熱という意味では、自動車でキャンプに行く場合、車内に放置してしまうと危険です。

ポータブル電源の使い方としてキャンプの需要はありますし、使い方はユーザーの自由です。ただそういった理由もあり、防災安全協会としては、アウトドアで使う目的では推奨していません。また防災用品としての推奨品マークなので、製品のホームページがアウトドアの説明のみで、防災への言及がない場合は認証していません。

防災安全協会では、認証した製品に「防災製品等推奨品マーク」を付与している

ーーそうすると理想的には、持ち出さず冷暗所に安置しておくべきなのでしょうか?

平易な言葉で言うと、人間が心地よい環境と同じがいいですね。リチウムイオン電池は高温多湿、粉塵、振動に弱いです。そのため、25度前後で振動もなくて、静かで、揺らされずに、移動もせずに、人が暮らして心地よいと感じるのと同じ環境が最善だと思います。

だからといって、冷暗所に安置しておくのはおすすめできません。使わなければ自然放電があります。自動車はエンジンをかけないで放置するとバッテリーが干上がりますが、ポータブル電源も同じで、干上がると二度と充電してくれなくなります。

普段使用することがないものは、クローゼットや押し入れなど目立たないところにしまいがちです。でもポータブル電源では、自然放電で充電できなくなることを防げるよう、日常的に使いながら充電しやすい場所に置くのが良いと思います。

余談ですが、新型コロナウイルスの流行で給付金が出た時、ポータブル電源がすごく売れたとメーカーの方から聞きました。プレゼントとして実家に送った方も多いようです。しかし、「使おうとしたら充電すらできない」という電話が最近よくかかってきます。いわゆる過放電の症状です。自然放電で電圧が基準よりも下がりすぎて、充電しても復活しなくなってしまう。それがタイミング的にいま起き始めています。

ポータブル電源は「しまっておく」のではなく「日常使い」するべき理由

ーーでは、ポータブル電源は定期的に状態をチェックする必要があるということでしょうか?

ポータブル電源は防災の備蓄に向いているとされていますが、保管しているだけだと状態が悪くなっていきますから、せっかくなので使ったほうが良いですね。災害食もそうですが、備蓄しておけると思うと使わなくなってしまいます。5年保存できると言われたら、5年置いておく場合が多いかもしれません。

災害食の場合は、古くなって食べようと思っているうちに、賞味期限が来て食べられなくなる場合もあります。でもそういった食べ物こそ、実際に食べてみて、自分に合っているか試さなければいけません。口に合わないなら違うメーカーにしたり、腹が満たされなければ保管する量を増やしたりとか。子どもが気に入らなかったら、子ども用が別に必要かもしれません。

備蓄だけに目が向いていると、そういうことに気がつきません。例として災害食を挙げましたが、これってポータブル電源も一緒ですよね。

水口氏は、ポータブル電源は普段から使っておくべきだと説く

「フェーズフリー」という考え方があります。これは防災用品を災害時にだけ使うのではなくて、普段から使い慣れているものが防災用としても使えるというものです。ポータブル電源も奥にしまっておくのではなく、普段から日常使いするのがおすすめです。

ポータブル電源は電池の交換ができないので、耐久消費財ではありますが消耗品です。せっかくなら普段使いをしたほうが良いと思っています。また、停電時にも機能を維持させたい電気製品もあったりしますよね。そういったものに対しては、ポータブル電源のパススルー機能などを使って、あらかじめ供給を確保しておくのも大事だと思います。

提案ですが、各部屋に一つずつポータブル電源を置くのも、電気の備蓄の分散という意味では良いかもしれません。一軒まるごとポータブル電源でまかなうのであれば、10kWh(10000Wh)くらいは必要だと思いますが、これだけの容量を一台で確保するのは大変です。それぞれの部屋ごとであれば、500Whや1000Whのものを複数用意するだけなので、負担が小さくなる場合もあると感じています。

給電回数・使用時間の目安(Image:JVC)

もし使わないで保管しておく場合は、使い慣れておくことも重要なので、2か月に1回程度使用することをおすすめします。災害発生のもしもの時に安心して使うには、充電残量のチェックや、充放電が出来るかを確認することも大切です。

ポータブル電源を買い替えるタイミング、処分する方法

ーーポータブル電源は消耗品とのことですが、どのくらいの頻度で買い換えればいいものでしょうか?

「何年使ったら買い替える」というのではなく、「使えなくなったら買い替える」と考えてもらったほうがいいかもしれません。ポータブル電源の中にあるバッテリーは、充放電を繰り返すと容量が少しずつ減っていきます。日常的に使っているユーザーから「最近、満充電しても1時間しか使えない」という声もよく聞きますが、電池容量が少なくなってきたら買い替えるきっかけになりますよね。

大きく分けて、電池には三元系(ニッケル・コバルト・リチウム)とリン酸鉄の2種類あります。三元系は出力が高い一方で、充放電回数はおよそ500回ぐらいと言われています。リン酸鉄は充放電回数が3000回以上あるので、ここ数年で採用するメーカーも増えて、耐久性の高さをアピールしているケースも多いですね。ただ、三元系よりも重く本体が大きくなるというトレードオフがあります。

バッテリーの充電サイクル(Image:JVC)

あとは、もっと容量の大きいのが欲しくなった、というのも買い替える動機として聞きます。300Whや500Whなど小型モデルを最初に買ったものの、「意外と使ってみると便利だった」ということに気づいて、1000Whや2000Whに買い替えたいという話もありました。

ーー古いポータブル電源を処分する際、自治体によっては回収が難しいと聞いたことがあります

実は自治体にポータブル電源を処理する仕組みは、まだ整っていません。引き取った廃棄品は、お住まいの自治体で処分しなければいけない決まりになっています。リチウム電池をリサイクルできる施設を持っている都道府県がほとんどなく、東京都にも施設はありません。

もし捨て方がわからないと、マンションだったら邪魔だからベランダに放置する人もいるかもしれません。電池はエネルギーの塊なので、完全に放電させてからだと良いのですが、もし使わなくて邪魔だから放置している人がいるとしたら。そこに太陽光や雨が当たって、さらに塩害もあると考えたら怖いわけです。

そのため、メーカー独自でリサイクルを進めているところも増えてきています。また、一般社団法人ポータブル蓄電池リサイクル協会(PBRA)では、ポータブル電源をリサイクルするための相談を受け付けることで、リサイクルの促進を目指しています。いま会員企業数は9社ほどです。

廃棄処理プロセスのイメージ(Image:一般社団法人ポータブル蓄電池リサイクル協会)

それに、リチウムイオン電池は使用後も有効な資源です。ポータブル電源にも多くの資源が使用されていますので、きちんとリサイクルをしていくことも大切だと思っています。

ーーありがとうございました

今回、2回に分けてインタビューを掲載してきた。水口氏が強調していたのは、ポータブル電源を選ぶ際には “メーカーのサポート体制が重要” ということ、そして普段使いしやすい製品を選ぶべきということだ。ついスペックや機能にばかり注目しがちだが、購入時にはこれらの点も考慮に入れていきたい。

冒頭の繰り返しになるが、防災安全協会では、災害用としておすすめできるポータブル電源に「防災製品等推奨品マーク」を付与している。公式サイトから認証製品をまとめた冊子のPDFも配布されているので、購入の際には参考にしてみてはいかがだろうか。

関連キーワード: