夢の物質は逃げ水のよう 

“常温超電導”研究者、大学の調査で「研究不正行為」があったと認定される

Image:University of Rochester

米ロチェスター大学の研究者ランガ・ディアス氏は、昨年8月に発表した「常温超伝導」を実現したとする論文の正確性に関する懸念から受けていた第三者委員会による調査の結果、「研究不正行為」に関与していたと認定された。

問題となった研究は、窒素を加えた水素化ルテチウムが室温で超伝導状態、つまり電気抵抗がゼロになるという、通常では考えられない特性をもつと報告していた。しかしその後、この主張に疑問を持った他の科学者らが、研究内容に矛盾点があることを指摘し、論文は撤回されることになった。

昨年、常温超伝導を実現すると呼ばれる物質に関する論文が、いくつかあったたことを覚えている人も多いだろう。その中でも最も大きな話題になったのは、韓国の高麗大学の研究チームによるもので、ラナーカイトとリン化銅を組み合わせた「LK-99」と称する物質についてのものだ。これはディアス氏の研究とは別の研究だったが、やはり後に矛盾点が指摘されたことにより撤回されている。

冷却や加圧をする必要なく電気抵抗がゼロになる常温超伝導物質が、もし大量に生産できるようになれば、たとえば送電網による電力ロスがなくなるため、電気代は今より安くすることが可能になる。また抵抗による発熱がなくなるため、いろいろな電気機器の冷却も不要になり、その分高効率化、省エネが実現できるはずだ。

しかしこれまでのところ、実験以外の場で常温常圧での超伝導を実現できた物質は確認されていない。いくつか発表された論文は、いずれも矛盾やデータの不正確さが指摘されており、ディアス氏の研究も今回の調査結果により、やはりデータの信頼性に問題があったと認められたというわけだ。

ロチェスター大学は、ディアス氏の論文において「データの信頼性に関する懸念が特定された」とし、「われわれは学術的な誠実さを重視する」とコメントした。

なお、大学側はディアス氏の別の研究2件に関しても調査を開始していたが、今回の決定を受けて、これら2件も撤回することとし、次のステップとしてディアス氏に対する人事的措置を講じるか否かを検討するとした。こちらは同大学の学長によって最終的に決定されることになるだろう。

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