どうなることやら

世間を騒がせた“常温超伝導体”「LK-99」に専門家から懐疑的な報告相次ぐ

Image:Hyun-Tak Kim (CC BY 4.0)

7月22日に韓国の量子エネルギー研究所の研究チームがプレプリント論文サイトのarXivに発表した「LK-99」と呼ばれる素材は、常温環境で超伝導の性質を示すとのことで、X(Twitter)やTikTokなどで瞬く間に話題になった。

超伝導とは金属や化合物などの物質の電気抵抗がゼロになる状態のことを指し、これが常温で実現できるとなれば、電気抵抗による損失がなくなることで、超高効率な電気機器や核融合炉のような技術の実用化の可能性が一気に高まる。わかりやすいところでは、発電所から変電所を経て各家庭に電気を届ける電線での電力損失がなくなり、電気代がもっと安くなるはずだ。

しかし超伝導は通常、伝導電子がより散乱しやすくなる、極度な低温と極端な高圧環境下で発生する現象だ。その低温環境を用意し、維持するのには非常に手間がかかる。そのため、いまだ超伝導現象を使用する技術はほとんど実用化されていない(MRI機器などでは超伝導現象が利用されている)。そこへ突然、常温常圧で超伝導状態になる材質を生成したとの報告が舞い込んだことから、人々は驚き、SNSでそのことが拡散されるに至った。

英オックスフォード大学応用超電導センター所長のクリス・グロブナー教授は、「技術的に実現可能な室温超伝導体は、単純にノーベル賞どころではない大発見であり、もしその特許を取得しているとすれば、それはとてつもない価値を生み出すことになる」と指摘している。

LK-99と名付けられたその物質は、鉛、酸素、リンで作られた多結晶材料で、そこに銅を添加したものとされている。韓国量子エネルギー研究センターが「私たちが開発したものは、人類の新たな時代を開く、まったく新しい歴史的出来事になると信じている」とまで述べてこの材料を発表した。だが、すぐに世界中の科学者や専門家から懐疑的な視線が集まり、たとえばインドのCSIR国立物理研究所(CSIR-NGRI)が行った検証では「室温でのLK-99の超伝導の兆候はない」と報告された。ほかにも、米メリーランド大学、台湾国立大学なども、LK-99の超伝導状態を再現しようとしたが、できなかったと報告した。

SNSでバイラル化する原因のひとつになった、LK-99が超電導のマイスナー効果によって磁気浮上しているという動画についても、中国量子材料応用研究開発センターが調べたところ、LK-99が強磁性体であるとの証拠を発見したと報告している。これはつまり、動画に写っているのは磁石が互いに反発して、片方が浮いているのと同じ状態と考えられることになる。

通常の超伝導材料が超伝導状態に移行する臨界点は、マイナス数百℃などの非常に低い温度だ。しかし元の論文でLK-99は、通常の室温環境で電気抵抗がゼロであり、臨界温度と呼ばれる温度には加熱を行う必要が示されている。ただ、その加熱の途中でなぜか電気抵抗値が緩やかに変化しているものの、その説明がないことが指摘されている。

このように、2週間ほどのあいだでarXivには、LK-99が超伝導体とする研究結果に疑問符を付ける別の論文が続々と投稿されるようになった。それはざっと数えただけで2桁にのぼっている。また今回、研究者らはLK-99に関する2つの論文をarXivに投稿しているが、その2つの論文の間でも総合に矛盾するデータがあることが指摘されている

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