自動運転開発で培われたAI技術はiPhoneビジネスに貢献

アップルカー開発中止、社内で称賛か。「Siriで車を運転」の野望も頓挫

Image:ARIMAG/Shutterstock.com

先日Bloombergは、アップルが自動運転EV「アップルカー」開発を10年以上にわたり続けた後に、正式に終了したと報じた。その舞台裏を、過去10年間プロジェクトに携わっていたという6人の証言に基づき、The New York Timesが詳細に伝えている。

アップルがテスラ買収を検討

この話が報じられたのは今回が初めてではなく、他ならぬテスラCEOのイーロン・マスク氏が2020年末に述べていたことだ。「モデル3が暗礁に乗り上げていた頃に、クックCEOに連絡を取り買収の可能性を話し合おうとしたが、面会を拒否されたと語っていた。

また、同時期にクック氏が同じ時期にテスラを買収する話を持ちかけたとの報道もあった。マスク氏は興味を示したが、それは「自分がアップルのCEOに就任する」という条件つきだ。クック氏は電話を切ったという。

今回のNYT報道によると、アップル側とマスク氏は何回か話し合ったとのこと。しかし、最終的にアップルは他社の事業を買収して統合するよりも、自社で車を製造する方が理にかなっていると判断したそうだ。

アップルカーはSiriで運転

当初アップルが「ハンドルもペダルもない」完全な自動運転車を目指していたことは、何度か報じられてきた。今回の報道では、そのディティールが伝えられている。元デザイン最高責任者ジョニー・アイブ氏は熱烈なクルマ好きで知られているが、やはりアップルカー開発に深く関わっていたようだ。

アイブ氏とデザイナーチームは、フィアット・ムルティプラ600のようなミニバン的なコンセプトを描いたという。ハンドルはなく、アップルの音声アシスタントSiriを使って操作する。

2015年秋のある日、アイブ氏とクック氏は、アップルカーがどのように機能するかのデモンストレーションを体験した。2人は「キャビンのような室内の座席」に腰を下ろす。外では、声優がSiriの台本を読み上げ、2人が架空の車で道路を疾走するという設定だ。アイブ氏がSiriに通り過ぎたレストランを尋ねると声優が答えを読み上げたと、デモに詳しい2人が語っている。

アップルはこのプロジェクトに100億ドル以上を投じたという。社内ではコードネーム「Titan(タイタン)」と呼ばれていた計画を「タイタニックの惨事」という声もあり、失敗する可能性が高いことは周知だったそうだ。

社内ではプロジェクト終了を称賛

もっとも、プロジェクトに関わっていた人々は終了の決定を称賛し、生成AI技術の礎を築いたことは、アップルの中核事業であるiPhoneビジネスの将来にとって貴重なものになるとの趣旨を述べていると伝えられている。

具体的には「A.I.搭載のカメラ付きAirPods、ロボットアシスタント、拡張現実など、研究中の他のテクノロジー」に応用する予定とのことだ。OpenAIやマイクロソフト、Googleが巻き起こした生成AIブームがアップルカーに最後の止めを刺したとも、アップルに賢明な判断を促したとも言えそうだ。

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