まだ動作が限定されるヒト型よりも、用途に特化する考え方

ヒト型よりも高速に荷物運搬する「自己バランス型ロボット」、独Fraunhoferが開発中

Image:Fraunhofer

近年、テスラや米Amazon、Apptronikといった企業が、工場や物流センターで活用するためにヒューマノイド(ヒト型ロボット)を開発している。だが、今の段階におけるヒト型ロボットは「荷物を持ち上げ」「運び」「所定の位置に置く」以外のことをほとんど行わないと考えられる。

とすれば、この3つの動作だけに単純化したロボットを開発するほうが、多関節活複雑な姿勢制御を必要とするヒューマノイドを作るよりも効率的かもしれない。独Fraunhofer研究所は、そんな考えを具現化し、荷物を挟む腕と走行する車輪を備えた、2本の足で自己バランスするロボット「evoBOT」を開発している。

evoBOTは自動的にバランスを保って起立し、最高速度60km/hで走行が可能なロボットで、リフティングアームを使用して最大65kgの荷物を持ち上げることが可能だ。これは一般的なヒューマノイドロボットに比べて最大3倍の重量物を最大10倍の速度で運搬できることを意味する。また自分で持ち上げるのでなく、誰かに荷物を載せてもらうのであれば、最大100kgまでの荷物に対応可能だという。グリッパー部分は回転機構を備えているため、挟み込んだ荷物は水平を保ったまま持ち上げ、運搬できるようになっている。

Image:Fraunhofer

さらにこのロボットは、何らかの理由で転倒してしまっても、自力で起き上がることもでき、スリップすることがなければ最大45度の登坂能力も備えている。ロボットの本体重量は約40kgと軽量であり、バッテリーで最大8時間の作業をこなせるため、数値どおりならば一般的な就業時間の間は充電する必要がない。

FraunhoferはevoBOTのようなロボットをミュンヘン空港で試験し、フラットな床面と広い作業スペースがある環境では、明らかな実用性を備えることを確認したところだ。

また同社は、平たいパレット運搬ロボット「O3dyn」の開発も同時に進めている。こちらは全方向に走行が可能なメカナムホイールを備えており、屋内でも屋外でも動作できる強力な自律走行型パレットジャッキだ。

O3dynはLiDAR、GPS、3Dカメラ システムを搭載し、周囲の障害物などを把握しながら最大36km/hで移動が可能。メカナムホイールを駆使してパレット前で正確な位置決めを行い、フォークリフトが使うパレット側面の穴に分厚いアームを差し込んで荷物を持ち上げることが可能だ。フォークリフトのようにヒトが乗って操作する必要がないためコンパクトで、狭い場所に出入りすることもできる。

Image:Fraunhofer

そして、このパレット運搬ロボは搭載する自律走行用のAIをシミュレーションベースで教科学習させている。この方法は実際にAIに動作をさせるのではなく、仮想空間内でシミュレーションを行わせることで学習時間を大幅に短縮するやりかただ。

そのほか運搬ロボットとしては、軽量なアルミニウムフレームと低重心の利点を生かし、現在のプロトタイプ段階でも350kgの荷物を運搬可能。最終的には1300kgもの積載荷重に耐えられるようになる予定だ。

O3dynは、その走路上にとつぜん障害物が出現した場合のための緊急ブレーキシステムも備えている。このシステムはO3dynのフロア下面に摩擦ブレーキプレートを装着しておき、急停止が必要な際はわざと本体を地面に設置させて「ズザー」とばかりに停止するしくみだ。死角の多い屋内で高速動作をするため、たとえば本来いないはずの場所に生身の作業員が現れたりした場合はこのしくみが役に立つだろう。ただし、Fraunhoferはこの緊急ブレーキシステムの仕組みでは積荷が前方に吹っ飛ばされてしまう可能性があることを把握しており、まだまだ改善が必要だとしている。

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