MRは想像以上に便利
「Meta Quest 3」レビュー。大きな進化、Quest 2から買い替える価値アリ
Metaから新たなMRヘッドセット「Meta Quest 3」が登場した。大ヒットを記録した前機種「Meta Quest 2」に続くモデルとあって、注目が集まっている。
10月10日の販売開始に先がけ、同社よりレビュー用の実機を借りることができた。機能が多く全て試すことはできていないが、ファーストインプレッションをお伝えしていこう。
約3年ぶりのアップデート
ヘッドセットにも色々なタイプがあるが、Questシリーズは、いわゆるスタンドアローン型の代表格だ。PCやゲーム機に接続する必要がなく、本体だけで完結する、オールインワンタイプのモデルである。
Quest 3の価格は、128GBモデルが74,800円(以下、税込表記)、512GBモデルが96,800円。絶対的な金額としては決して安くはないが、たとえば「PlayStation VR2」はPS5との接続が必須であり、合計すると10万円を余裕で超えてしまう。そう考えると、本体だけで完結できるQuest 3は金銭的なハードルは低い(Quest 2/3はPC接続も可能)。
ちなみに前モデルのQuest 2は引き続き併売され、47,300円から入手できる。価格差はそれなりにあるが、Quest 2をプライベートで購入し遊び続けてきた者からすると、予算があればぜひQuest 3をおすすめしたい。なぜなら、Quest 3は “2で感じてきた不満を多くの点で解消している” と感じたからだ。記者も買い替えを検討している。
Quest 2の発売から約3年を経たこともあり、Quest 3では多くの面でアップグレードが行われている。もちろんQuest 2もVRゲームを遊ぶには必要十分。そこから体験のクオリティを高め、より快適性を高めてきたのがQuest 3と考えてもいいかもしれない。
一方、Quest 3でしか使えない新機能もある。それがVRだけでなく、MR(Mixed Reality=拡張現実)へ対応したことだ。MRとは、これまでのVR(仮想現実)のように仮想空間に入り込むのではなく、現実の空間に仮想空間を融合するものだ。Metaのヘッドセットでは、Quest 3とQuest Proの2機種でMRが利用できる。
詳しくは後ほど触れるが、たとえばMRでは、実際の風景の中にディスプレイを浮かび上がらせることや、キャラクターが壁を登ったり家具の裏に隠れたりするといった表現が可能。AR(拡張現実)とも似ているように思えるが、現実に重ね合わせるという感覚はなく、文字通りの “融合” を体験できる。
パンケーキレンズで薄型化
前置きが長くなったが、Quest 3の本体を見ていこう。まず外観におけるハイライトは、本体が、より薄くなっていることだ。Quest 2と並べてみると、かなり差があるのが分かるだろう。
本体が薄くなることで、重心がより手前に来るので、装着時の負担も少なくなる。重さは515gであり、実は503gのQuest 2より重くなっているのだが、装着感はより軽くなったように感じられた。
この薄さを実現したのが、パンケーキレンズを採用した新たな光学系。メーカーによると40%のスリム化を実現したという。Quest 2に使われていたフレネルレンズ(同心円状に溝が彫られたレンズ)と比べ、パンケーキレンズではレンズとディスプレイ間の距離を近づけやすいと言われている。
また、IPD(瞳孔間距離)の調整ホイールが追加され、従来の3段階ではなく無段階で調整可能になった。メガネ使用時にレンズとのクリアランスを確保する機構についても、フェイスパッド部分を4段階でスライドできるようになった。記者もメガネユーザーだが、これまでは薄いスペーサー1枚を挟むだけだった。調整の自由度が上がったのは嬉しい。
電源ボタンの位置やヘッドストラップの形状も変更されている。付属のヘッドストラップはQuest 2と同様にゴムの力で固定するタイプだが、後頭部に当たる部分は2又に分かれている。よりしっかりとした装着を求めるユーザー向けに「Eliteストラップ」(10,450円/Quest 2と互換性なし)も別売アクセサリーとして用意される。
また、個人的に面白いと感じたのが、USB-Cポートと3.5mmイヤホン端子の位置。それぞれヘッドストラップの根本の、回転する軸部分に設けられている。
正面には、各種カメラやセンサーが備わっている。このうち、2つのRGBカラーカメラと深度プロジェクターにより、現実の風景をデジタル化してMRを実現する。他にも側面を合わせてカメラが4基搭載されているのだが、これはユーザーの位置やコントローラーのトラッキングに使うのだろう。
スペック面ではSoCに「Snapdragon XR2 Gen 2」を初搭載し、Quest 2からGPU処理能力が2倍に向上したとのこと。メモリについても33%増量した8GBとなっている。ディスプレイの解像度は片目あたり2064×2208ピクセルで、こちらもQuest 2から約30%向上している。リフレッシュレートは90Hzおよび120Hz、視野角は110度・水平および96度・垂直に広がっている。
MRで現実と仮想が “融合”
目玉となるMR機能をまず試してみた。ヘッドセットを装着すると、カメラ越しに捉えられた室内がパススルーで眼前に広がる。“まるで肉眼で見た映像と同じ” というわけには行かないが、夜でもシーリングライトなどを点けている状態ではノイズも多くなく、事前に想像していたより自然に見える。
Quest 2では荒くてノイズの多いモノクロの世界だったので、パススルーでの室内表示は、軽く周囲を確認したり、コントローラーを探したりするくらいしか使えなかった。Quest 3ではカラーなので、ヘッドセットを装着したまま歩き回り、少しくらいの作業ならこなせてしまう。ヘッドセットは一度装着してしまうと外すのが面倒なので、着けたままでも良いのは便利だ。
腕などをカメラの前に横切らせると、その周辺の背景が歪んだりはするが、記者の個人的感覚としては、そこまで気にならなかった。一方で、スマートフォンを装着したまま操作できるか試してみたが、これは文字が読みづらく、厳しいように感じた。幸い、ヘッドセット装着時に鼻の周囲に少し隙間があるので、Quest 2のときと同様、ここから覗き込んでスマートフォンを操作しようと思う。
MRでは、このパススルーで表示された風景をベースに、さまざまな仮想的な表示が行える。たとえばホーム画面に表示される操作用パネルがあるのだが、これが実際の室内に存在し、浮いているように見える。歩き回っても位置は固定されている。
Quest 3はハンドトラッキングに対応しており、パネルを手で持って移動させることもできる(コントローラーでも可能)。ブラウザーを起動してYouTubeの動画を再生することも可能なため、ちょうどいいところに “持って移動” させ、ソファでくつろぎながら見る、といった使い方も可能だ。
MRに対応したアプリはいくつかあるが、今回はチュートリアルとしてプリインストールされていた『First Encounters』を試してみた。部屋の中が異空間へと繋がり、そこから飛び出してくるキャラクターをピストルで撃ち、捕獲していくミニゲームだ。
ゲームを起動すると、まず部屋の中のスキャンが促される。部屋の中を歩き回ると、スキャンできた部分にメッシュ状の模様が表示されていく。ソファやテーブルなどの家具は手動でも追加設定できるが、自動だけでほぼ問題なく、家具の凹凸も含めてスキャンできた。
スキャンが完了するとゲーム開始。最初の演出が終わると、壁が破壊されてキャラクターが飛び出してくる。キャラクターが家具を登ったりする演出もあり、現実の室内に仮想の世界が “融合” したかのような体験が得られた。
新コントローラーでVRゲームが快適に
次にVRゲームも試してみるが、その前に、新たな「Meta Quest Touch Plusコントローラー」について触れておきたい。
新コントローラーでは、従来のコントローラーに設けられていた、トラッキング用のリングがなくなっている。個人的に大きく歓迎したいポイントで、VRゲームに熱中していると、意外とこのリングをぶつけてしまったりする。おかげでプライベートで使っているQuest 2のコントローラーは、リング部分だけ傷だらけである。
そして、触ってみてから良いなと思ったのが、同社が「TruTouch可変ハプティクス」と呼ぶ、コントローラーの振動の進化。コツコツと小さく叩くような細かい振動も体感でき、Quest 2よりも触覚フィードバックの幅が広がったように思う。
MRの際は手でも操作を行っていたが、やはりVRでゲームを楽しむ際においては、コントローラーの振動が没入感にもたらす影響は大きい。ボタンを押した際に振動するのはもちろん、戦いでは剣が交わる際に震えるし、ピストルを撃つ時はトリガーを引いたタイミングで反動のイメージが手に再現される。
まず、記者が長年プレイし続けている大ヒット音楽ゲーム『BeatSaber』を起動してみた。これは両手にそれぞれ赤と青のサーベルを持ち、リズムに合わせて流れるキューブを斬っていくというものだ。キューブには斬る向きが指定されているので、サーベルの動かし方も腕の見せ所となっている。
このBeatSaberだが、たまに腕を交差させないと斬れないような場面もある。そういった場合、Quest 2では高確率でコントローラー同士がぶつかる。壊れたかと思ったこともあった。Quest 3ではリングがないので、ぶつかる心配も減り、個人的にかなり嬉しいポイントだった。
レビューにあたって、いくつかゲームを試していたとき、Quest 3ではインストール速度も上がっていることに気がついた。これもプロセッサー刷新により、パフォーマンスが向上したためなのだろう。アプリのライブラリーをスクロールした際にあったカクつきもない。これならストレスを感じる場面が少なそうだ。
なお、ヘッドセットがコントローラーの位置をトラッキングするインサイドアウト方式のため、コントローラーを体の後ろの方に持っていくと、トラッキングが行えないことに注意が必要。これはQuest 2でも同様だったが、たとえば『Holopoint』のように弓を使うゲームの場合、矢を引きすぎるとヘッドセットがコントローラーを見失ってしまう。これを解消したい場合は、コントローラー自身がトラッキングを行う「Meta Quest Touch Proコントローラー」(Quest Proに付属。単品購入は37,180円・税込)を使う必要がある。
画質も音質も向上、全面的に進化した“新基準”
最後に画質と音質も軽く触れておこう。まず画質については、解像度が上がったこともあり、Quest 2で感じていた網目感(スクリーンドア効果)が軽減された。Quest 2でもゲーム中はさほど気にならなかったが、ブラウザーなど文字を表示しようとすると気になる場面が多かった。Quest 3では小さめの文字も読みやすくなったのは嬉しい。
パンケーキレンズを採用したことで、これまでのフレネルレンズよりも見え方が良くなった。特に従来のフレネルレンズは画質のスイートスポットが狭く、絶妙な位置にヘッドセットを固定しないと表示がぼやけてしまっていた。Quest 3ではクッキリ見える範囲が広がったので装着も楽。中央部だけでなく周辺部の画質も向上しているので、YouTubeアプリで映像を大画面で見るのも快適だった。
一方で、無段階調整できるようになったIPD(瞳孔間距離)の調整だが、設定のためのガイドが特になかったのは不親切に思えた。「映像が鮮明に見えるように調整して」という旨が表示されたのみ。コスト削減のためか、回転させても◯mmという表示はされないようだ。
また本体にはスピーカーが内蔵されているが、メーカーは「40%音量アップした再生音域、低音域、最適なL/Rマッチング機能」を謳っている。Quest 2の時点でも必要十分ではあったが、さらに低域が豊かになり迫力が増している。よりコンテンツに没入して楽しめそうだ。
Quest 2から全面的にアップグレードされたQuest 3は、新たにMRをサポートしただけでなく、これまでのVRコンテンツもより快適に楽しめるようになった。ヘッドセットはなかなか実際に試しづらいものだが、ぜひ体感してみてほしい製品だ。