世界各国の2Gや3G、LTEでも動作する必要があるため

アップルの5Gモデム開発、クアルコム製より「3年遅れ」か。iPhoneプロセッサーより開発困難

Image:Ira Lichi/Shutterstock.com

先週アップルは、クアルコムとの5Gモデムチップ供給契約を3年延長したことが明らかになった。アップルは独自設計の5Gモデムを開発しているものの、予想以上に難航しているためと推測されている。

そして昨年末の時点では、同社はプロトタイプの開発に成功したものの、クアルコム製よりも「3年遅れ」の水準に留まっていたと米The Wall Street Journalが報じている。

独自モデム開発プロジェクトは、2018年から始まったという。が、昨年末にできた試作チップは遅くて過熱しやすく、iPhone内部の半分以上のスペースを占めるため、使いものにならなかったという。

現在のiPhoneは、クアルコム製のモデムチップを使用している(iPhone 14シリーズはSnapdragon X65 5G)。しかし、アップルは2つの理由から、クアルコムへの依存を不満に思っていた。

1つには、アップルがクアルコムの特許技術を使うにあたり、一定のライセンス料ではなく、iPhone1台当たりの使用料を支払う必要があること。もう1つは、クアルコムからモデムチップを購入した際も、それとは別に特許ライセンス料を要求されることだ。アップルはこれを二重取りだと呼び、やがて両社は数年にわたる訴訟合戦へとなだれ込んだ。

が、代わりとなったインテル製モデムは開発が遅れた上に、技術的なトラブルも絶えず、アップル幹部らは苛立っていたという内情が報じられたこともある。

そうした事情のためか、アップルはクアルコムと和解し、再びiPhone用にモデムチップ供給を受けることになった。その一方で、インテルのスマートフォン向けモデム事業の大半を買収し、モデムの自社開発体制を整えたとみられている。

さてWSJによれば、アップル幹部らは当初、2023年秋にモデムチップを投入する目標を設定してたという。要は、今年のiPhone 15シリーズに搭載するつもりだったわけだ。しかし、昨年末の試作品テストの結果を受けて、iPhoneへの採用は2024年へと延期。最終的にはそれも達成できないと気づき、クアルコムとのモデム供給契約を延長したという流れのようだ。

問題の1つは、アップルがモデムチップ開発の難しさを過小評価していたことだ。iPhone向けAシリーズチップやMac向けMシリーズチップは大成功を収めた。その開発を主導したジョニー・スロウジ氏のもと、独自モデム開発はスタート。しかし、アップルの首脳陣にはワイヤレスチップ開発の経験がなかったため、非現実的なほど厳しいタイムラインを設定したという。

クアルコムの元幹部であるサージ・ウィレネガー氏は「開発の遅れは、アップルがこの取り組み(モデム開発)の複雑さを予想していなかったことを示している」とコメントしている。

ウィレネガー氏が「セルラー(携帯通信)は怪物だ」というほどモデムチップ開発が複雑なのは、最新の5G規格だけではなく、世界各国で使われている2G、3G、4Gでもシームレスに動作しなければならないためだ。iPhoneやMac専用に設計されたソフトウェアを実行できればいいAppleシリコンとは事情が違う。

次期iPhone廉価モデル、通称「iPhone SE 4」は、独自設計5Gモデムの運用テストも兼ねているため、その発売時期とモデムの開発状況とはセットになっているとみられている。以前アナリストらは2024年発売と予想していたが、その後に2025年に修正しており 、今回の報道とも符合している。

しかし、昨年末に「iPhone内部の半分以上のスペース」を占めていたものが、あと2年で現実的なサイズに縮小できるのか。もし間に合わなかった場合は、iPhone SE 4も再び延期されるのか、今後の展開を見守りたいところだ。

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