処理能力と高価な画面で3D酔いを力づくで抑える方針

Apple Vision Pro、“VR酔い”対策に注力か。そのカギは「低遅延DRAM」

Image:Apple/YouTube

アップルの空間コンピュータことAR/VRヘッドセットの「Vision Pro」は、前例のないユーザー体験を実現するため、数々のリッチな部品を搭載している。わざわざセンサーやマイクからの入力処理用に独自開発チップ「R1」まで投入されているが、そのためにカスタム設計されたDRAMまで使っていると韓国メディアThe Korea Heraldが報じている。

Vision Proには、2つの独立したチップセットが搭載されている。メインプロセッサーはMacにも積まれたM2であり、グラフィックの処理やvisionOSの実行、コンピュータービジョンアルゴリズム等を担当している。

一方でR1チップは、12台のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクから送られてくる全ての情報を処理し、瞬きより8倍も高速な12ミリ秒以内に、画像をディスプレイにストリーミングする。この高速転送を実現するため、SK hynixは1ギガビットの低遅延DRAMチップを提供しているという。

この新型DRAMは入出力のピン数を8倍に増やし、遅延を最小限に抑えたとのこと。また「Fan-Out Wafer Level Packaging」という独自のパッケージング方式(複数のチップを1つにまとめて大きなプロセッサーにする技術。高速・高性能にするためのカギ)を採用し、DRAMはR1チップセットに統合されているため、処理速度が2倍になるとのことだ。

こうした各パーツへのこだわりは、Vision Proの随所に見られる。たとえばOLEDマイクロディスプレイは専用品ではないものの、ソニーが持つ最先端の技術である

これが2枚で700ドル、本体価格3,499ドル~の20%(製造原価であれば半分近く)を占めている。Vision Proは「製造の難しさ」により大幅な減産を余儀なくされたとの噂もあったが、マイクロOLEDパネルもソニー以外では製造が難しく、当分の間Vision Proの出荷台数を増やす上で枷になるとの見方もある。

それほどの制約を受けてもアップルが高品質のパーツにこだわるのは、いわゆる「VR酔い」を極力抑えるためだろう。英リバプール・ホープ大学でAIと空間コンピューティングを研究するデイヴィッド・リード教授は、Vision Proがパワフルな処理能力と高品質のディスプレイにより「乗り物酔い(VR酔い)に対して最高級の対策をしたヘッドセットを作った」と分析していた

もしも速やかな商業的成功を目指すのであれば、製造コストや小売価格も下げていたはず。あえて量産さえ困難となる道を選んだのは、アップルがユーザー体験、ひいては自社ブランドを最優先するためかもしれない。

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