他の大手組立て業者は在庫管理の高い利益率で相殺

インドでのiPhone製造の先駆者、Wistronが撤退。アップルとの価格交渉が実らず

Image:hyotographics/Shutterstock.com

アップルは長年にわたり、中国に主要な生産拠点を置いてきた。しかし米中関係の緊張が高まったことから中国依存からの脱却を検討し始め、さらに新型コロナ禍の下での上海等のロックダウンによりその動きは加速したとみられている。移転先の主な候補地と目されているのが、すでに人口で中国を超えたとされる(国連発表)インドである

台湾企業Wistronは、インドで最初にiPhoneの生産(組立)を開始した企業だ。が、アップルとの価格交渉が厳しく利益を上げられなかったとして、事業から撤退したと現地メディアEconomic Timesが報じている。

インドへの生産拠点作りは、まさにWistronが初代iPhone SEを生産するところから始まった。その後にFoxconnやPegatronといった大手サプライヤーがiPhone工場をインドに建設し、昨年(2022年)にはiPhone 14シリーズまでもがインドで製造されるに至っている。

そんななか、Wistronは「荷物をまとめている」という。ベンガルール近郊のコラールにあるiPhone工場を現地のタタ・グループに売却する手続きを進めているとのこと。同社は最終製品の単なる組立請負に長期的な収益性を見いだせず、以前から撤退を検討していたそうだ。

Wistronは2020年に昆山工場をLuxshareに売却した後、中国でのiPhone製造を中止している。インドの事業だけでは規模が小さすぎて、収益が上げづらかったという。そのため「より高いマージンを求めてアップルと交渉したが、FoxconnやPegatronよりも世界的に見ても小さな企業のため、必要な影響力を持てなかった」と匿名の幹部が語っている。

FoxconnやPegatronはインドで部品の在庫管理もしているが、Wistronにはそのシステムがなく、利益率の高いビジネスに参入できなかった。一般的に受託製造では在庫管理の利益率が高く(100%近くなることもあるという)、大手受託メーカーは組立ての低い利益率を相殺できる。Wistronは、単なる組立て業者に過ぎなかったわけだ。

同社がiPhone製造から利益を上げるのに苦労した理由の1つは、現地の労働文化に対応しづらかったこともあるようだ。

2020年、同社のバンガロール工場では、賃金の未払いをめぐって大規模な暴動が発生し、数百万ドル相当の損害が発生。インド政府とアップルが調査した結果、Wistronは賃金未払いを含む重大な労働法違反を犯していたことが判明していた。当時はWistronがiPhone契約を失うのではないかと危惧されたが、生産が3か月停止されるに留まっていた。

そして現在もなお、コラール工場では労働者の確保に問題を抱えている。中国や台湾からやって来た管理職がインドの労働文化が理解できず、高い離職率に繋がっているという。管理職は24時間働いており社会生活はないも同然の一方で、インド人労働者は仕事の後に外出したり祭りの日に休暇を取ったりしたいが、許可されないそうだ。

そうした異文化間の摩擦は、工場のオーナーが変わっても解決されるわけではない。さらにコラール工場は市内から40km離れている上に交通アクセスも不便で、なかなか地元の管理職が雇えないそうだ。iPhone製造を引き継いだタタ・グループも、やはり苦労するのかもしれない。

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