PS VR2もQuest ProもPico4も売上不振
減速中のVR市場、アップル製ヘッドセットは「最後の希望」か
アップルは同社初のAR/VRヘッドセットを、現地時間6月5日から行われる世界開発者会議「WWDC」にて発表することが半ば確実視されている。量産開始も発表も延期されるとの予想もあったが、アップルの社内事情に詳しいMark Gurman記者が最新のニュースレターで「待望のヘッドセットが発表予定のWWDC 2023」としてやんわり反論していた。
本製品の発表こそが、ハイテク企業が投資家にヘッドセットがヒット商品になると説得するための「最後の希望」になるとの見解を、著名アナリストが主張している。
アップルのサプライチェーン情報に詳しいアナリストMing-Chi Kuo氏は、自らのブログで最近のAR/VR市場の最新情報を概説。ソニーはPS VR2の2023年内生産計画を約20%削減し、Metaの高級ヘッドセット「Quest Pro」のライフサイクル出荷台数(製品寿命を通じた累計)は30万台に過ぎず、安価かつ高性能に注目が集まった中国Picoヘッドセットの出荷台数も予想より40%以上少なかったとのこと。おおむね、暗い見通しといえる。
Kuo氏はそうした現状を確認した上で、AR/VRヘッドセットが家電の「次のスター商品」になり得ることを示す根拠は今のところ十分ではないという。ハイテク各社は先を争って新製品を投入してきたが、ことごとく空振りに終わっているというわけだ。
そのためアップルの発表イベントまでも不評であれば、投資家らもAR/VRデバイスが「次のスター製品」になり得ないと見切りを付け、他社もAR/VR新製品の投入や研究開発を続けることが難しくなるとの予想と解釈できるだろう。
その「最後の希望」とされるアップル製ヘッドセットも、発表が近づくにつれて懐疑的な見方が強まっている。たとえば3月末にThe New York Timesは、ヘッドセットの高価さと有用性に懸念を抱くアップル社内の声を紹介していた。iPhoneやiPadのように「問題を探すための解決策」にはなり得ず、明快なビジョンがないままに誕生してしまったという具合だ。
アップルのティム・クックCEOは今週初め、自社が行ってきたこと全てに「懐疑的な人がたくさんいた」と振り返りつつ、とにかく成功を収めてきたと述べていた。また「他人のものを組み合わせることには興味がない」とし、「主要技術(何かの派生技術ではなく、自社がゼロから開発した)をコントロールしたい」ともいう。
だが、上述のアップル従業員らはiPodを「デジタル音楽をポケットに入れる」、iPhoneは「音楽プレイヤーと電話を組み合わせる」というように、既存技術を活用して成功したと示唆していた。またアップルはすでに市場が確立された分野に参入して市場を変えることは上手いが、ARやVRはそうした市場ではないとの調査会社の分析もあった。
これまでの噂では、アップルの初代ヘッドセットは2枚の4Kマイクロ有機ELディスプレイ、ユーザーのジェスチャーや表情まで捉える数十台のカメラなど最先端技術を満載しつつ、価格は3000~4000ドルとみられている。
また数日前、米国で10代の若者5600人を対象として、VRヘッドセットを日常的に楽しんでいるのはわずか4%との調査結果も出ていた。そうした若者層に高価なヘッドセットがリーチするとは考えがたいが、アップルとしては他社のAR/VR市場が冷え込んでしまった後も、長期的に取り組み価格を下げていくことで、独自のユーザー層を育てていく戦略があるのかもしれない。