逆ではないかとの声も

中国がアップルに「プライバシー保護の強化」を要請

Image:Tim Cook/Weibo

アップルのティム・クックCEOは北京で開催された経済フォーラムに参加し、中国のイノベーションを称賛したとも報じられていた。そもそもアップルの中国でのサプライチェーン網を構築したのはクック氏のため自然な発言ではあるが、米中の緊張が高まるなか、中国依存からの脱却を進めているといわれる最中だけに皮肉でもある。

その場で中国の国家発展改革委員会委員長・鄭山傑氏がクック氏に対して、データセキュリティと個人のプライバシー保護を強化するよう要請したと伝えられている。米Reutersが報じていることだが、それ以上の詳細は明かされていない。

「プライバシーは基本的人権」を標榜しているアップルに対しては、この要請はいかにも不可解だ。実際にアップルは厳重な暗号化や追跡型広告のブロックなど、あらゆる最新技術を用いてプライバシーを保護してきた。少なくとも個人のデータ保護については、アップル以上に注力している企業は他に考えにくい。

かたや中国は2017年に可決された国家情報法に基づき、企業に個人データ等の国内保存や政府への情報提供を義務づけている。中国企業ByteDanceが運営するTikTokが欧米で窮地に立たされているのも、まさに「中国政府に個人データを渡すのではないか」との疑いが晴らせないためだ。その中国がアップルにプライバシー保護を要請するのは、いかにも真逆の印象がある。

だが、アップルは現地の法律に違反するアプリを検閲するなど、中国でのビジネスを維持するために数々の妥協を重ねてきた。2018年には中国人ユーザーのiCloudデータ管理を中国データセンターに移行し、現地法人に運営を委ねている

もっとも中国が香港に対して国家安全法を施行し、実質的に支配下に置いたとき、アップルは香港ユーザーのiCloudデータを米国内のサーバーで保管すると発表していた。やはり米国に拠点を置く企業であり、またプライバシーを最大の価値の1つとする以上、中国政府への譲歩にも限界があったようだ。

クック氏は上記のフォーラムで、中国とアップルとの30年にわたり成長をともにした「共生関係」を称賛して語っていた。また現地のアップルストアで従業員らと写真撮影もしていたが、今後も米中政府に板挟みされるなかインドでのサプライチェーンを育て上げる必要もあり、心労は絶えなさそうだ。

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