脚本家にとっては差し迫った現実

AIが脚本を書くことを全米脚本家組合が認める。ただし人間の「道具」としてのみ

Image:Alex Millauer/Shutterstock.com

昨年末にOpenAIが「ChatGPT」を公開するや、ハイテク業界にはAIチャットボット旋風が吹き荒れている。Googleが「Bard」を発表した翌日にマイクロソフトがChatGPT技術を統合したBing/Edgeを打ち出し、さらにOpenAIが強化版LLM(大規模言語モデル)「GPT-4」を発表するなど、ますます加速するばかりだ。

その熱気と裏腹に、ChatGPTが執筆業の仕事を乗っ取ってしまうのでは?と懸念が高まるなか、全米脚本家組合(Writers Guild of America/以下WGA)が人間の「道具」としてとの条件つきで、AIが脚本を書くことを認めると提案している。

米Varietyによると、WGAはこの提案を映画製作者協会(AMPTP/米国のテレビおよび映画制作会社を代表する業界団体)と新たな契約を交渉している中で出してきたという。

WGA提案では、人間の作家がChatGPTを使って脚本を書くことができ、AIに執筆クレジットや印税を分かち合う必要はないとのこと。また製作スタジオはAIが作成した脚本を人間に渡して編集や書き直しさせることができるとともに、人間の作家はその作品の初稿を手がけたとしてクレジットを保持できるという。

そして本提案には、AIが生成したテキストは「文学作品」または「原作」とみなされるべきではないとも明記されている。つまり、AIに著作権は認められないという権利関係まで踏み込んでいるかたちだ。

さらにAIをクリエイターとしてではなく、Final Draft(脚本家に愛用される執筆アプリ)や鉛筆のような道具として扱うよう提案されている。これは脚本やプロジェクトの権利につき、人間の作家とソフトウェア会社との訴訟を防ぐことも視野に入れられているようだ。

これ以前、WGAはプロの執筆活動におけるAI利用の規制を呼びかけており、そこから180度の方針変更といえる。ちょうどOpenAIが、米国の労働者の80%がいずれ何らかの形でAIの影響を受けるとのレポートを発表した直後である。WGAとしても、今後はAIが執筆業に深く関わる流れは不可避と受け止め、共存の方向へと舵を切ったのかもしれない。

それでも、WGAの議論には欠けている観点がある。それは人間がプロンプトで指示を与えつつも、徹頭徹尾AIがすべて書いたプロジェクトをどう扱うか、ということだ。この問題はすでに現実のものとなりつつあり、ヒューゴー賞を複数回受賞したSF雑誌『Clarkesworld』は、AIが生成した小説が殺到したため受付を一時停止している。

日本でも、たとえば「小説家になろう」系の異世界転生ファンタジー小説をChatGPTに読ませて、全13話のアニメ脚本を生成できる可能性もあるだろう。今後、国境を越えて生成系AIと脚本家との関係が「競合」となるか「共存」となるかが議論の焦点となりそうだ。

関連キーワード: