【連載】佐野正弘のITインサイト 第214回
厳しいスマホ市場に限界、ウェアラブルに活路を見出すシャープの狙い
市場の飽和に加え円安の長期化、中東情勢の影響、そしてAIデータセンター急拡大の影響によるメモリ・ストレージ不足と、スマートフォン市場を巡る情勢は厳しさを増すばかりという昨今。それだけにスマートフォンメーカーにいま問われているのは、そうした厳しい状況下でいかにビジネスを継続していくための戦略である。
国内では最大手となるシャープも、スマートフォン事業に関して大きな戦略転換を打ち出している。実際同社は2026年6月9日の事業戦略説明会で、シャープはスマートフォン事業に関して、事業の主軸をローエンドから、ミドルクラスやハイエンドにシフトする方針を打ち出していた。

シャープのスマートフォンで現在最も販売数が多いのは、ローエンドの「AQUOS wish」シリーズだ。だが価格競争力が求められるローエンドモデルは、円安やメモリ不足の影響による部材高騰の影響を大きく受けやすく、利益を出せなくなってきている。
そこでシャープは事業戦略説明会で、スマートフォンの主軸をミドルクラスの「AQUOS sense」シリーズや、ハイエンドの「AQUOS R」シリーズへとシフトさせる方針を示している。シャープのミドル・ハイエンドの販売構成比率は、2025年度には約40%であったというが、2026年度にはそれを70%へと、大幅に向上させるとしていたのだ。
そしてその方針は、2026年6月16日に実施された同社のスマートフォン新製品発表会で明確に示されることとなった。同社は2025年の同じ時期に、ハイエンドモデルの「AQUOS R10」とローエンドの「AQUOS wish5」を発表していたのだが、今回発表したのはハイエンドモデルの後継モデル「AQUOS R11」のみだったのである。

AQUOS R11はAQUOS R10の順当な後継モデルといえる内容であり、その詳細は既報に譲りたいが、シャープの戦略上重要なポイントはやはり、同時期にAQUOS wishシリーズの後継モデルを投入しなかったことだろう。
その理由についてシャープの通信本部長である中江優晃氏は、AQUOS wishシリーズが法人などで大きな需要があるため継続する姿勢は示す一方、「ハイエンドのAQUOS R11は非常に大事な商品であり、これを中心にラインアップを組み上げる」と説明。事業戦略説明会の通り、同社がミドル・ハイエンド重視の戦略にシフトしている様子を示していた。

だが、そのAQUOS R11の価格を見ると、メモリ不足などの影響が直撃して価格高騰が避けられなかった様子だ。
実際、AQUOS R11のSIMフリー版で発売されるストレージ512GBのモデルの価格は、同社のオンラインショップ「COCORO STORE」で163,900円(以下、税込表記)。前機種AQUOS R10の発売時の価格は、同じ512GBのモデルで107,800円となっていることから、単純計算で56,100円もの大幅値上げとなっている。
国内ではNTTドコモやソフトバンクから販売されるストレージ256GBのモデルはもう少し安価で購入できるだろうが、それでもAQUOS R10の256GBモデル(COCORO STOREで99,700円)より大幅に高騰することが予想される。
それに加えて、ここ最近拡大を進めてきた海外販路も台湾のみに絞られており、インドネシアやシンガポールでの販売は今回見送られるという。

価格高騰と販路の縮小により、AQUOS R11の販売数はAQUOS R10よりも減少することが予想される。その傾向は今後登場するであろうAQUOS senseシリーズの後継モデルにも影響すると見られる。
それだけに、今後シャープの市場シェアは大幅低下が避けられないだろう。だが、中江氏は販売数を増やすことよりも、価格に見合う価値を提供してロイヤルカスタマーを増やす、収益重視の姿勢を見せている。
もう1つ、シャープが厳しい環境を乗り越える新たな取り組みとして打ち出したのが、ウェアラブル事業への参入である。実際同社は新製品発表会で、新たにスマートウォッチの「からだメイト Watch」と、スマートリングの「からだメイト Ring」という2つのウェアラブルデバイスを発表している。

これらデバイスの特徴は、多くのスマートウォッチが力を入れるスポーツやフィットネスではなく、ヘルスケアに重点を置いて機能強化を図っていること。そのことを示しているのがからだメイト Watchであり、HEALBE Corporationの技術を活用することで、食べ物を食べたときの摂取カロリーを89%という高い精度で自動推定する仕組みを備えている。

また、からだメイト Ringは、スマートリングを手がけるSOXAIの技術を活用して開発しており、最大14日間バッテリーが持続することから、身体に負担をかけることなく睡眠などのセンシングをできるようにしている。一方で、両機種ともにIPX8の防水性能を備え、ハンドソープで洗うこともできるなど、スマートフォンで培ったシャープの技術も生かされている様子だ。
そしてシャープの戦略を見据える上で重要なのが、スマートフォンアプリの「からだメイト」である。これは2つのウェアラブルデバイスから取得した情報を基に、身体情報を見える化するヘルスケアアプリだ。
重要なポイントは、無料のサービスに加え、月額600円の月額サービス「からだメイトPlusプラン」が用意されていること。こちらを契約すれば、ユーザーの目的に合わせた専門的なアドバイスや、より詳細な食事管理の提案などが受けられる。

シャープは先の事業戦略説明会で、今後スマートフォンで培った技術を活用しながらも、ハードの売り切りではなく、有料のサービスなどと連携して継続的に収益を得る、ストック型のビジネスに力を入れる方針を示していた。会話をするのに月額制のサービス契約が必要な「ポケとも」がその一例となるが、からだメイトもそれに続く取り組みになるといえよう。
また、からだメイトには、先に中江氏が触れていたロイヤルカスタマーを増やす上でも重要な役割を果たす商品になるという。なぜならウェアラブルデバイスとアプリを提供することで、スマートフォンと組み合わせた三位一体でシャープ独自の価値を提供できるようになり、それをロイヤルカスタマーの醸成、さらにはそれを家電など同社の他の製品販売にもつなげていくことができるようになるからだ。
ただそうした取り組みは、アップルやGoogle、サムスンなどのスマートフォン大手が既に取り組んでいるもので、目新しさがある訳ではない。摂取カロリーの自動推定など従来のデバイスにはない特徴で、いかに利用者を取り込みロイヤルカスタマーへと育てられるかどうかがシャープにとっては重要になってくるだろう。
