ラムジェットと回転デトネーションエンジンのハイブリッド式

マッハ6の極超音速機が実現する?回転爆轟ラムジェットエンジン、米Venus Aerospaceが発表

Image:Venus Aerospace

極超音速推進技術を開発する米国の新興企業 Venus Aerospaceが、Venus Detonation Ramjet 2000 lb. Thrust Engine、略してVDR2と称するロケットエンジンを発表した。このエンジンは旅客機が音速を大きく上回る驚異的な速度で、広大な距離を飛行できるようにし、将来の空の旅を一変させる可能性がある。

極超音速(Hypersonic Speed)とは、定義は諸説あるものの、だいたいマッハ5以上の速度を指すと理解しておけば問題ない。そして、Venus Aerospaceが目指しているのは、マッハ6で飛ぶ極超音速機のエンジンを開発することだ。

極超音速飛行を実現するには、極限の速度で継続的な推力を維持できるエンジンを開発する必要がある。既存の極超音速システムはロケットで打ち上げられ、高高度かつ極超音速に達してからは目的地に向けて滑空して地上に戻る仕組みが考えられていた。しかし、この方法では旅客機に求められる動力飛行を維持できないため、非現実的でもあった。

Venus AerospaceのVDR2はこの相反する問題を解決するシンプルなエンジン設計を採用している。ベースとなるのはラムジェット(Ramjet)と呼ばれる方式のエンジンだ。ラムジェットは一般的なジェットエンジンとは異なりタービンブレードがない。そして、飛行時には超音速で流入したエアーをラム圧によって圧縮し、そこへ燃料を噴射、点火して推進力を得る。

当然ながら、ラムジェットエンジンが機能するには超音速の流入空気が必要だ。このエンジンがよく使われるミサイルなどでは、初期加速用に固体燃料ロケットが使われているが、旅客機にはそれは使えない。そこで、VDR2では回転爆轟(Rotating Detonation、回転デトネーション)式ロケットエンジンの仕組みをラムジェットに組み合わせることにした。

回転爆轟式ロケットエンジン(RDRE)は、燃焼が極超音速で衝撃波を伴い伝播する「爆轟波(デトネーション波)」と呼ばれる現象を環状流路または円筒流路に発生させ、極超音速かつ高い推力を生み出す。言葉で表すと難しそうだが、構造的には一般的なロケットエンジンに比べ非常に単純なものだ。

VDR2のRDRE部分は、間に空隙を持つ2つの同軸シリンダーで構成される。この空隙に燃料と酸化剤を混合して噴射し、そこに点火・燃焼させ爆轟波を生み出す。この爆轟波が適切に構成されれば、空隙内に回転する超音速衝撃波が連続的に発生し、従来の燃焼方法よりも大幅に大きな推進力を発生させる。

VDR2は、このRDRE技術とラムジェット技術を2つのエンジンに融合させ、パワフルなだけでなく耐久性にも優れたエンジンに仕立て上げたものだ。メーカーが言うには、このエンジンは機体を高度17万フィート(約5万2000m)で、マッハ6という驚異的な速度まで到達させられるとのことだ。さらにこのエンジンは従来のエンジンよりも15%効率的であり、商業利用への適性も高いとしている。

Venus Aerispaceは、高速空気燃焼を専門分野とするVelontra社と提携し、来年にはVDR2これを搭載したテスト機の初飛行を計画中だ。Venus Aerispaceの最高技術責任者(CTO)アンドリュー・ダグルビー氏は「高速飛行における革命を実現するために高速空気燃焼の専門家であるVelontraと協力できることを喜ばしく思う」とコメント。またVelontraの最高執行責任者(COO)エリック・ブリッグス氏は「この最初の飛行を実現し、最終的にこのエンジンのコンセプトを完成させる日が待ちきれない」と述べている。

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