深宇宙への進出担う技術

NASA、高効率で超音速燃焼する「回転爆轟ロケットエンジン」の試験成功

Image:NASA

NASAの推進開発技術チームが、本格的な “回転爆轟” ロケットエンジンを開発し、試験に成功した。

英語でrotating detonation rocket engine、RDREなどと記されるこのエンジンは、従来のロケットエンジンとは異なり、燃料混合気が超音速(秒速2000~3000m)で燃焼伝播する “爆轟(Detonation)” と呼ばれる現象を利用する。また少ない燃料消費でより多くの発電も可能で、将来月や火星などの深宇宙への有人飛行において、着陸船および探査機により多くの電力を提供可能になる可能性がある。

今回のNASAの試験は、アラバマ州ハンツビルにあるNASAマーシャル宇宙飛行センターのエンジニアと、インディアナ州にあるIn Space社の協力によって行われた。エンジンは十数回、合計で約10分間燃焼したという。

RDREの内部では燃料の爆発波が円形のチャンバーの周りを移動し、燃料からより多くのパワーを絞り出す。しかし一方で、エンジンには非常に高いストレスがかかる。今回の試験用エンジンはNASAが開発した高熱伝導率、高クリープ(変形)耐性、高温耐性という特徴を持つ銅合金GRCop-42を、粉末床溶融結合法と呼ばれる、いわば3Dプリントの一種の方法で製造され、過酷な条件でもオーバーヒートしない特性を備えている。そしてNASAは、このエンジンが持続的な燃焼に耐えられるかを知りたいと考えていた。

試験では、エンジンのハードウェアが燃焼によって発生する極端な熱と圧力に対する耐久性があるか、また長時間の燃焼が可能かといった実証すべき項目を確認し、1平方インチあたり622ポンドの平均チャンバー圧力で1分間近く4000ポンド(約1800kg)超の推力を生成できた。

今回の成功で、将来、回転爆轟エンジンを搭載するロケットがより多くのペイロードを深宇宙の目的地に送り届けられるようになる可能性が高まった。NASAは今後、従来の液体燃料ロケットエンジンに対する性能上の利点をさらに追求すべく、完全に再利用可能な推力1万ポンド(約4500kg)クラスのRDREの開発作業を進めるとしている。

これは中型ロケットエンジンに相当する大きさだ。大型ロケットのSLSに使用されるMS-25エンジン(元はスペースシャトル用)や、SpaceXのMerlinエンジンなどに比べれば非常に小さいが、従来の液体ロケットエンジンよりも安全に、かつ大型化を進める方法を理解するのに役立つと期待されている。

ちなみにNASAは、今回初めて実物大のテストエンジンを作り実験を行ったが、日本のJAXAは2021年に名古屋大学、慶應義塾大学、室蘭工業大学と共同開発した回転爆轟方式と、パルス爆轟方式という、2種類のエンジンの宇宙空間での実証実験を成功させている。こちらはサイズ的には非常に小型で、また宇宙空間で燃焼可能かどうかを数秒間ずつ試したものだったが、開発チームは現在の宇宙ロケット用エンジンの置き換えとして軽量高性能化を実現できることを確認し、また実用化に大きく近づく結果が得られたとしていた。

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