【連載】佐野正弘のITインサイト 第27回
Pixelで日本攻略に本気のGoogle。成功の鍵は「n79」と「Galaxy」
米Googleは先日10月6日、スマートフォン「Pixel」シリーズの最新モデル「Pixel 7」シリーズの発売を発表した。Pixel 7シリーズの存在自体は、Google自身がすでに明らかにしていたが、ようやく正式に披露されることとなった。
Pixel 7シリーズに関しては、既に多くの報道がなされているので詳細は控えるが、大まかに振り返ると、新しいプロセッサー「Google Tensor G2」で強化されたAI技術の活用により、ピンボケした写真をクリアにしたり、上位モデルの「Pixel 7 Pro」では、デジタルズームながら精細な30倍ズームを実現したりするなど、カメラを中心にさまざまな機能強化がなされているのがポイントとなっている。
注目される「Pixel 7」シリーズの日本展開
だが、そうした機能や性能以外にも注目を集めているのが、日本での販売についてだ。日本での販売価格は、税込でPixel 7が8万2,500円から、Pixel 7 Proが12万4,300円からとなっているのだが、米国での販売価格はそれぞれ税抜で599ドル、899ドルからとされている。
これらを記事執筆時点の為替レートで日本円にすると、それぞれ約8万7,000円、13万1,000円となる。実際の販売価格がこれらの価格を、しかも税込で下回っていることを考えれば、いかにGoogleが日本でPixel 7シリーズの販売に力を入れようとしているかが、理解できるのではないだろうか。
それに加えて、10月7日に日本で実施されたPixel 7シリーズの発表会には、冒頭に同社CEOであるスンダー・ピチャイ氏が登場するというサプライズもあった。ピチャイ氏が来日したのは、日本での戦略的なインフラ投資という、より大きな目的のためだったようだが、それでもGoogleのCEOが日本での発表の場に直接現れるというのは、やはり日本でのPixel 7シリーズの販売に対して、同社が非常に力を注いでいることがうかがえる。
シェア拡大を左右する2つの要素
こうした事象からも、Googleがいかに日本でのPixelシリーズの販売に力を注いでいるかを見て取ることができるのだが、シェアを伸ばし、市場での存在感を高めるには、大きく2つの要素に左右される可能性が高いと筆者は見ている。それは、「n79」と「Galaxy」だ。
まず前者のn79についてだが、これは5Gの周波数帯(バンド)の1つである、4.5GHz帯のことを示している。バンドn79は日本の携帯電話会社の中で、NTTドコモだけに割り当てられているもの。だがこの周波数帯は、他社にも割り当てられている3.7GHz帯とは違い、衛星通信の干渉をあまり受けず、エリア整備がしやすいことから、NTTドコモはバンドn79を積極活用して、5Gのエリアを広げているのだ。
だが、このバンドn79は世界的に見ると、日本のほかは中国など一部でしか利用されていないマイナーな周波数帯となっている。それゆえ、海外のスマートフォンメーカーを中心に、バンドn79への対応を見送ることが多いのだ。
実際、NTTドコモ以外から販売されるスマートフォンの多くは、バンドn79に対応していないものが多く、NTTドコモの回線で利用すると、5Gを快適に利用できない。それはGoogleも同様で、Pixel 7シリーズをはじめ、5Gに対応したPixelシリーズは、これまでバンドn79に非対応となっている。
実はNTTドコモは、4G時代の2018年に「Pixel 3」シリーズを販売したことがある。だがそれ以降、同社がPixelシリーズを取り扱わないのは、同社の5Gネットワークで欠かせないバンドn79に対応していないことが大きな理由になっているのでは、という見方が少なからずあるのだ。
ただNTTドコモは、国内最大の携帯電話会社であり、NTTドコモがPixelシリーズを販売しなければ、Googleのシェアの大幅な向上が見込めないのも事実。それゆえ、Googleがバンドn79に対応し、NTTドコモからの販売に再びこぎつけられるかどうかが、日本で販売を伸ばす上で非常に重要な鍵を握っているともいえるわけだ。
そして、もう1つの「Galaxy」についてだが、こちらは言うまでもなくサムスン電子の「Galaxy」シリーズを指している。なぜGalaxyが、Pixelシリーズの販売を左右するのかといえば、そこにも携帯電話会社、より具体的にはソフトバンクの存在がある。
実は現在、携帯4社の中でソフトバンクだけが唯一、サムスン電子製のスマートフォンを販売していない。ソフトバンクも2015年の「Galaxy S6 edge」までは、サムスン電子製のスマートフォンを扱っていたのだが、その後両社の関係が悪化しているようで、以後ソフトバンクはサムスン電子製スマートフォンを扱っていないのだ。
だが、世界最大のスマートフォンメーカーであるサムスン電子は、ラインナップの充実度が非常に高く、ブランド力もある。それゆえ、同社製端末を扱うNTTドコモやKDDI(au)のラインナップを見ると、新機種におけるGalaxyシリーズの比率が、ここ最近、大幅に高まっている状況なのだ。
一方でソフトバンクは、サムスン電子の端末を扱っていない分、他のメーカー製端末でラインナップの充実度を上げる必要に迫られ、LGエレクトロニクスや中国メーカーなどの端末も扱うようになったが、ブランド力の弱さなどもあってその穴を埋めるには至らなかった。
そこで目を付けたのが、日本での知名度が非常に高いGoogleであり、同社はPixel 3シリーズから継続的にPixelシリーズの端末を販売。2021年には、「Pixel 6 Pro」を国内携帯電話会社で独占販売するなど、他社よりもPixelシリーズの販売に力を入れている様子を見て取ることができる。
だが、市場は常に大きく動くもの。携帯電話会社からすると、スマートフォンメーカーの減少による調達端末の減少課題となっているし、メーカー側からすると値引き規制による低価格志向の強まりで、売上を上げるため販路を拡大する必要に迫られている。
そうした状況を受けてサムスン電子は、2022年に「Galaxy M23」でオープン市場に参入、さらに最新の「Galaxy Z Flip4」では、楽天モバイルへの販売を本格化させるに至っている。そうした影響から、もしソフトバンクとサムスン電子の関係に変化が起きるようなことがあれば、Google、ひいてはPixelシリーズの販売にも、非常に大きな影響が出てくる可能性があるわけだ。
オープン市場でのスマートフォン販売が伸びているとはいえ、日本で最も大きなスマートフォンの販路が携帯電話会社であることに変わりはない。それだけに、Googleと携帯電話会社との関係性の変化が、Pixelシリーズの販売を大きく左右することは間違いないだろう。