莫大な設備投資や人手不足、反トラスト調査など
半導体王者TSMCに試練。注文殺到で直面する「成功ゆえの苦しみ」

台湾の半導体大手TSMCは、ファウンドリ(受託製造)市場で65〜70%のシェアを握り、先進ロジックチップに限れば90%以上を掌握している。とくに2nm、3nm、1.4nmといった先進プロセスでインテルやサムスンを大きく引き離しており、事実上の一強体制を築いたと言ってよい。
しかし、こうした絶好調の裏で、TSMCはいま「成功ゆえの苦しみ」に直面していると報じられている。巨額の設備投資、深刻な労働力不足、そして供給逼迫といった課題が同時にのしかかっているのだ。
台湾の自由時報(Liberty Times)によると、TSMCは殺到する受注に応えるため、生産能力拡大に向けた大規模投資を余儀なくされている。一方で、工場拡張に伴うコスト上昇が懸念材料となっている。設備投資額は2026年に500億ドルへ急増する見通しで、その多くは2nmなど次世代ノードへの展開や、4nmといった主流プロセスの供給確保に充てられるとされる。
課題は前工程だけにとどまらない。先端パッケージング、すなわち後工程も大きなボトルネックになりつつある。GPUやTPUなどAIアクセラレータを中心としたHPC(高性能計算)向け需要が爆発的に増え、この分野でも積極的な能力拡張が求められているためだ。HPCでは単なるチップ数の増加では足りず、複数ダイを統合する高度なパッケージングが必要となり、設備負荷が一気に高まる。
さらに、ファウンドリ業界全体で熟練労働者不足が深刻化しているとも伝えられる。TSMCの急拡大が人手不足や賃金高騰を助長している側面もあるという。一方、製造装置や化学材料、ウェハーなどを供給するサプライヤー企業も受注は急増しており、2026年にかけて成長が見込まれるものの、インフレ環境下で十分な価格転嫁ができず、「痛しかゆし」の状態に置かれているとされる。
本件では直接触れられていないが、TSMCの米国投資を巡っては、同社の独占的地位をさらに強めるとして、反トラスト調査を求める声も上がっている。成功しすぎたTSMCは、「出る杭は打たれる」という別種の悩みも抱え込んでいるようだ。
