【連載】佐野正弘のITインサイト 第154回

楽天モバイルも販売する「Nothing Phone (3a)」、上位モデルが日本で販売されない理由

英国の新興スマートフォンメーカーであるNothing Technology。背面が光る「Glyph interface」を搭載し、デザインに注力した独自性の強いスマートフォンを提供し大きな話題となったが、新興メーカーということもあって日本市場への注力は大きいとはいえなかった。

だが2024年に発売した「Nothing Phone (2a)」でFeliCaへの対応を実現。さらに日本にオフィスを設立して元ソニーの黒住吉郎氏がマネージングディレクターに就任するなど、日本市場への注力を強める姿勢を打ち出すようになってきた。

そのNothing Technologyが、先日4月8日に新製品発表イベントを実施し、スマートフォン新機種「Nothing Phone (3a)」の国内投入を発表している。Nothing Phone (3a)は2025年3月にスペイン・バルセロナで実施された「MWC Barcelona 2025」に合わせて発表されたもので、今回日本でも正式投入が発表されるに至ったようだ。

Nothing Technologyが日本での発売を打ち出した「Nothing Phone (3a)」。「Nothing Phone (2a)」の後継に当たるミドルクラスのモデルとなる

その詳細については別記事に譲るが、この機種は先に触れたNothing Phone (2a)の後継モデルで、性能的に言えばミドルクラスに当たるもの。Glyph interfaceを搭載したNothing Technologyらしい特徴的な背面デザインはそのままに、さまざまな部分での機能・性能強化が図られている。

中でも強化がなされているのがカメラだ。Nothing Phone (2a)は広角・超広角の2眼構成だったのに対し、Nothing Phone (3a)はそれに加えて、5000万画素で光学2倍ズーム相当の撮影が可能な望遠カメラを搭載した、3眼構成へと進化。4倍までのロスレスズーム撮影、最大で30倍までのズーム撮影が可能となっている。

カメラは3眼に進化しており、新たに望遠カメラを搭載したことで最大30倍のズーム撮影が可能になった

そしてもう1つ、強化がなされているのがチップセットである。Nothing Phone (2a)ではメディアテック製の「Dimensity 7200 Pro」を採用していたが、Nothing Phone (3a)ではそれをクアルコム製の「Snapdragon 7s Gen 3」に変更し、AI関連の機能を大幅に強化しているのだ。

実際Nothing Phone (3a)には、AI技術を活用した独自機能「Essential Key」と「Essential Space」が搭載されている。これは、撮影した写真やスクリーンショット、あるいは音声によるメモなどをEssential Keyを押してEssential Spaceに記録し、その記録を基にAIがさまざまな情報の提案をしてくれるというものだ。

右側面の電源キーの下には「Essential Key」を搭載。このボタンを押して写真や画像、音声などを「Essential Space」に記録する仕組みだ

当初はベータ版としての提供となるようだが、AI技術をより独自性のある形で活用しようという取り組みは、ある意味でNothing Technologyらしいものといえる。

このように、ミドルクラスとしては非常に特徴的な製品となっているNothing Phone (3a)なのだが、実はスペインでNothing Phone (3a)が発表された際、同時に上位モデルとなる「Nothing Phone (3a) Pro」も発表がなされていたのだ。

Nothing Phone (3a) Proも主な機能・性能は共通しているのだが、大きな違いとなるのが望遠カメラにペリスコープ(潜望鏡)構造の望遠カメラを採用していること。それによって光学3倍ズーム相当の撮影ができるほか、ロスレスで6倍までのズーム撮影、最大60倍までのズーム撮影が可能となっている。

Nothing Phone (3a)には上位モデルの「Nothing Phone (3a) Pro」も用意されており、こちらは光学3倍ズーム相当の望遠カメラが搭載されているのだが、日本では発売されないという

だが今回、Nothing Technologyは日本での販売についてNothing Phone (3a)のみに絞る方針で、Nothing Phone (3a) Proは投入しないという。その理由について黒住氏は、日本における同社のリソースがまだ限られており、そのリソースで顧客に製品を提供する上では、プロダクトに優先順位を付ける必要があったと話している。

実際Nothing Phone (3a)は、国内ではNothing Phone (2a)と同様にFeliCaを搭載して販売するなど、日本市場に向けたローカライズに重点を置いている。ローカライズしたモデルの提供には手間とコストがかかるだけに、競合と比べれば規模が小さいNothing Technologyが日本市場に向けてそれだけの手間をかけるとなると、どうしても投入する機種数を絞る必要があるようだ。

Nothing Technologyの黒住氏は、まだ日本でのリソースが限られている中、丁寧にローカライズして製品販売する上では数を絞る必要があるとしている

そうしたNothing Technologyの姿勢は販路にも出ている。実はNothing Phone (3a)は、従来のいわゆる “SIMフリー” としての販売だけでなく、楽天モバイルからの販売がなされることも明らかにされている。携帯4社から同社の端末が発売されるのは今回が初なのだが、その最初のターゲットが、シェアが大きく大きな販売数が見込める他の3社ではなく、最も規模が小さい楽天モバイルとなったことには意外性があった。

Nothing Phone (3a)はSIMフリーとしてだけでなく楽天モバイルからも販売される。同社製のスマートフォンが携帯4社から販売されるのは今回が初となり、ブルーのカラーは楽天モバイル限定色になるという

その理由として黒住氏は、従来と違った新しい取り組みをしているなど、楽天モバイルと目指すところが共通している部分があったことなどを挙げているのだが、より大きく影響しているのはNothing Technology側のリソースにある。

実はおよそ1年前となる2024年4月18日に同社が実施した製品発表イベントで、黒住氏は携帯電話会社への販路開拓を進めるには、日本での体制がまだ整っていないと話していた。それから1年が経過し、その体制がある程度整ったことから、Nothing Phone (3a)では楽天モバイルに話を持ち掛け、採用に至ったとしている。
 
とはいえ、比較的参入が新しいとされるシャオミでさえ、日本市場参入から既に5年以上が経過している。それより後発となるNothing Technologyが、日本でのオフィス設立から1年で整えられる体制には規模的にも限界がある。

まだリソースに限りがある状況で携帯電話会社と取引を始めるにあたっては、販売数も大きいがその分事業規模も求められる他の3社よりも、まだ規模が小さい楽天モバイルの方が対応しやすかったのではないだろうか。楽天モバイル側としても、Nothing Technologyのスマートフォンは非常に特徴があり、他社と差異化ができるだけにWin-Winの関係を構築しやすかったといえる。

国内向けカスタマイズに重きを置く一方で、製品や販路を大きく広げ過ぎない同社の姿勢からは、一気に資本を投入してスピーディーな開拓よりも、丁寧さを重視して市場開拓を進めようとしている同社の方向性を見て取ることができる。

ただ一方で、日本市場を巡るここ最近の変化は非常に激しさを増しているだけに、どこかでアクセルを踏んで勝負をかける必要も出てくるだろう。そのタイミングの見極めが、同社の日本での事業成長には大きく影響を与えることになりそうだ。

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