アップルの5000億ドル投資が逆効果に

トランプ大統領、iPhoneは「絶対に」米国内で製造できると確信

Image:Novikov Aleksey/Shutterstock.com

米トランプ大統領は「絶対に」アップルがiPhoneやその他のデバイスを米国で製造できると信じていると、カロライン・リービット報道官は記者会見で述べている。

リービット氏は、トランプ大統領がiPhoneを米国内で製造できると考えているかどうかを尋ねられ、「もちろんだ。(トランプ大統領は)労働力があり、人材があり、それを実行できるリソースがあると信じている」と回答した。さらに「ご存じの通り、アップルは米国に5000億ドルを投資している。アップルが米国でできないと考えていたなら、これほど大きな金額を投じなかっただろう」とも付け加えている。

米政府は9日の午後(日本時間)から、中国やベトナム、インドといったアップルの製造拠点がある諸国に高額の関税を発動した。もしも同社のような企業が関税を支払いたくないのであれば、米国内で製造すべきだというのがトランプ大統領の主張である。

トランプ大統領は、アップルが非常に複雑なサプライチェーンを米国に移せると示唆しているが、それはほぼ不可能だろう。莫大な人件費や建設費のコストを度外視しても、アップルと関連サプライヤーが米国内で必要なスキルを持つ人材を十分に確保できる可能性は低い。

かつてアップルのティム・クックCEOは、iPhoneが中国で組み立てられる理由について、現地に高度なスキルを持つ人材が豊富にいるからだと述べていた

クック氏いわく、中国はもはや人件費の安い国ではなくなっており、製造拠点を置くかどうかは「スキル、ある地域におけるスキルの量、および種類」によって決まるという。米国では工具エンジニアの会議を開いても部屋を埋め尽くすことができないが、中国では「複数のフットボール場を埋められる」ほどの格差があるというわけだ。

一方、米商務長官のハワード・ラトニック氏は「何百万人もの人々が小さな小さなネジをiPhoneにねじ込む、そうした仕事がアメリカにもたらされるだろう」と述べた。404Mediaはこの発言を「米国製のiPhoneは全くのファンタジー」とする記事で引用し、彼もトランプ氏もアップルの業務を理解していないと示唆している。

さらに同誌は、アップルの27ページにわたるサプライヤーリストを強調している。そこには同社が部品を調達している50か国以上が記載されており、これらすべてを1か国で製造することは不可能である。たとえ米国内に「製造」の最終工程を移しても、関税を回避することはできないだろう。

仮に「製造」をデバイスの組み立てに限定し、米国内で熟練工を確保できたとしても、他の国との賃金差を考えれば、米国製iPhoneの価格は途方もなく高額になると予想される。

アップルはテキサス州でMac Proの一部について最終組立を行っているが、当初は困難を極めた。たとえばMac Pro専用のねじを製造する米国の業者は1日あたり1000個しか生産できず、そのためMac Proの発売は2013年12月から2014年2月以降に延期された。こうした事例は、米国内での大規模な製造を受け入れる環境が欠けていることを示している。

最大のiPhone製造拠点がある中国に対して、トランプ氏は既存の20%関税に加え、「相互関税」として34%、さらに中国の報復措置に対する追加関税として50%を課す予定である。合計すると104%の関税が発動されることになり、今後アップルがどのように対応するのかに注目が集まっている。

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