【連載】佐野正弘のITインサイト 第153回
ゲーミングPCに流れるコアゲーマー達、苦戦が続く“ゲーミングスマホ”は再興なるか
スマートフォンでのゲームプレイに強くこだわった “ゲーミングスマートフォン” 。スマートフォンの性能向上に伴い、3Dグラフィックを活用した本格的なAAAクラスのゲームが多く配信され、スマートフォンゲームでのeスポーツが盛り上がるようになって以降、ゲームをより快適にプレイできることに注力したスマートフォンが登場するようになった。
ゲーミングスマホの現状を最新機種から考察
そうしたゲーミングスマートフォンは、現在も最新機種がいくつか投入されている。2025年にも1月には、中国ZTE傘下のnubiaのゲーミングスマートフォン新機種「REDMAGIC 10 Pro」が、販売代理店を通じて国内販売されている。
REDMAGIC 10 Proは、クアルコム製のハイエンド向けとなる最新のチップセット「Snapdragon 8 Elite」を搭載し、RAMは最大24GBと非常に高い性能を備えている。それに加えて独自の空冷冷却システム「REDMAGIC ICE-X」を搭載しており、長時間のゲームプレイでも高い性能を維持できる仕組みを整えている。

また、台湾のエイスーステック・コンピュータ(ASUS)も、ゲーミングスマートフォンの先駆的存在といえる “ROG Phone” シリーズの最新モデル「ROG Phone 9」シリーズを、先日3月28日に発売している。こちらもチップセットに「Snapdragon 8 Elite」を搭載するなど、非常に高い性能を備えているだけでなく、背面にLEDによるアニメーションを表示できる「AniMe Vision」を搭載している。
さらに上位モデルの「ROG Phone 9 Pro」では、そのAniMe Vision上でゲームがプレイできる「AniMe Play」にも対応。前面と背面の両方でゲームを楽しめる、ゲームに特化した仕様となっていることが分かるだろう。

そしてもう1つ、厳密にはゲーミングスマートフォンではないのだが、それに近しい存在として中国シャオミの「POCO」ブランドのスマートフォン新機種も登場している。POCOはシャオミの中ではオンライン販売専門のブランドという位置付けで、高い性能を備えながら低価格で購入できるコストパフォーマンスが特徴となっていることから、高性能が求められるゲーミングを重視する人達から高い人気を獲得しているブランドとなっている。
POCOブランドのスマートフォンはこれまでにも日本で数機種が投入されたが、継続的に投入されてきたわけではない。だがシャオミは2025年、そのPOCOブランドを日本で本格展開することを表明しており、海外で発表された新機種を相次いで日本でも投入しているのだ。
実際シャオミは2月12日に、国内では初となるPOCOブランドのミドルクラスのスマートフォン「POCO X7 Pro」を発売。そして3月27日には、ハイエンドモデルの新機種「POCO F7 Pro」と「POCO F7 Ultra」の2機種を発売している。いずれも海外発表と同日の発売となるだけに、その力の入れ具合を見て取ることができるだろう。

こうして見れば、ゲーミングスマートフォンやそれに類するデバイスが現在も継続的に投入されていることは分かる。だが、その盛り上がりはかつてと比べ大きく落ちているというのが正直なところで、市場環境は厳しい。実際、かつて国内でもゲーミングスマートフォンを投入していた中国のBlack Sharkなどは、2022年の「Black Shark 5」シリーズを最後にスマートフォン新機種を投入しておらず、一時は経営危機が伝えられたほどだ。

誤解を招かないよう触れておくと、ゲーム市場の売り上げ規模でいえば依然、スマートフォンゲームが家庭用ゲーム機やPCゲームよりも大きいことに変わりはない。それにもかかわらず、ゲーミングスマートフォンのようなデバイスを揃えて本格的にゲームをプレイするというニーズが減少しているわけだ。
その理由は、本格的なゲームプレイを求めるコアゲーマー層が他のプラットフォーム、とりわけPCゲームに流れているためだろう。ここ数年来、コアゲーマー層に向けたPCゲームは非常に大きな盛り上がりを見せており、それを受けてゲーミングPCなどの周辺デバイスの市場も活況を呈しているし、最近ではポータブルゲーミングPCが急増し、盛り上がりを見せるようになってきた。
これは、ゲームを快適にプレイできる性能を備えた超小型のパソコンに、ゲームコントローラーなどを装着し、携帯しながらPCゲームが楽しめるもの。ある意味Valveの「Steam Deck」に近いデバイスともいえ、スマートフォンよりは明らかに大型ではあるものの、自宅内で寝転がってPCゲームの続きをプレイしたい、といった需要には充分応えられることから人気となっているようだ。

スマートフォンがあるのにコンパクトなPCゲーミングデバイスのニーズが高まっている点からも、コアゲーマーがPCゲームに流れている様子を見て取ることができるだろう。コアゲーマー層は本格的なAAAクラスのゲームを快適にプレイできることを求める傾向が強いだけに、お金さえかければ最上級のプレイ環境を整えられるPCゲームへの関心が高まり、そちらへ流れる動きが強まったのではないだろうか。
もちろん、最近ではスマートフォンの性能も上がっているし、AAAクラスのゲームの中でもPCとスマートフォンの両方で遊べるものは増加傾向にある。だが自宅の整った環境でプレイすることを考えた場合、画面サイズの小ささや、タッチ操作が主体でインターフェースの拡張性に乏しいなど、限界も多くある。
ゲーミングスマートフォンでスマートフォンとしては最上位の環境を提供しても、環境が整った場所ではPCの環境を超えられない。提供されるゲームの共通化が進んでいるにもかかわらず、デバイスとしてコアゲーマーを惹き付けられず、苦戦を余儀なくされているというのが筆者の見方である。
それゆえゲーミングスマートフォンはここ最近、ゲーミングデバイスらしい派手さをあえて抑え、カメラを強化したりFeliCaを搭載したりするなど、日常利用にも対応できることをアピールするものが増えている。だがゲーミングの色をあまりに抑えてしまえば、他のハイエンドスマートフォンと変わらなくなり埋没してしまう危惧もある。

それだけにゲーミングスマートフォンが再興するには、やはりゲーミングデバイスとしての魅力をさらに高めていく必要があるのではないだろうか。そしてそのためには、よりスマートフォンならではのゲーム体験向上にコミットすることが求められるだろう。
そのための課題をいくつか挙げてみると、1つ目は縦画面ゲームへの対応だ。最近では、スマートフォンに合わせ縦画面で快適にプレイできる、AAAクラスに類するゲームなども出てきているのだが、ゲーミングスマートフォンは横画面でのゲームプレイを重視したものが多く、縦画面で利用すると機能面で制約が出てくる場合があることが、以前から気になっている。
2つ目は周辺デバイスによる拡張性だ。スマートフォンのゲームはタッチ操作を前提とした設計がなされていることが多く、周辺機器でインターフェースを拡張する環境があまり整っていない。ゲーミングスマートフォンはメーカー独自の周辺機器が提供されるケースはあるが、それでもPCと比べれば機器の選択肢の幅は小さく、周辺機器市場が育たない点が、スマートフォンのゲーミングが盛り上がりを欠く要因となっていることは確かだ。
そしてもう1つは、スマートフォンの性能をフルに発揮できるゲームを増やすことだ。例えば最近のAAAクラスのゲームでは、最光の反射や屈折などをリアルに表現する「レイトレーシング」という技術を、リアルタイムに反映させる「リアルタイムレイトレーシング」を取り入れて、グラフィックの表現力を向上させたものが増えている。
実はスマートフォンでも、ゲーミングスマートフォンが搭載するようなハイエンド向けのチップセットであれば、すでにリアルタイムレイトレーシングへの対応がなされている。それにもかかわらず、スマートフォン向けのゲームでこの機能に対応したものがまだほとんど出てきておらず、せっかくの性能を生かせていないことも気になっている。
そうした対応を進めるには、スマートフォンメーカーだけでゲームメーカーやハードメーカー、そしてチップセットを開発するメーカーなど、業界全体で連携を図っていく必要があるため、ハードルが高い部分もあるだろう。
だが、ゲーミングデバイスとしてのスマートフォンの魅力を高めていく上では、横の連携によってスマートフォンでのゲーミング体験を向上させ、市場全体を盛り上げる取り組みが不可欠になってくるのではないだろうか。