【連載】佐野正弘のITインサイト 第152回
国内で不調が続くGoogle“Pixelシリーズ”。「Pixel 9a」は救世主になりえるのか
1月にサムスン電子、2月にはアップル、3月にはシャオミと、2025年は初旬から注目の新機種投入が相次いでいるスマートフォン。米国時間の3月19日にも注目機種の新機種発表がなされている。
Google「Pixel 9a」が正式発表。確実視される日本販売の動向を考察
それはGoogleの「Pixel 9a」だ。Googleの “Pixelシリーズ” は国内でも高い人気を獲得しているが、その中でも「a」が付くモデルは、ハイエンドモデルと同じチップセットを搭載しながら、価格が抑えられていることから、とりわけ高い人気を獲得している。それだけにPixel 9aの発表には、国内でも大きな注目を集めているようだ。
Pixel 9aの詳細については本誌でも既に触れているので、詳細はそちらをご確認頂きたいが、基本的には従来のPixelシリーズのaモデルを踏襲した内容といえるだろう。実際、Pixel 9aはチップセットには最新のハイエンドモデル「Pixel 9」シリーズと同じ「Tensor G4」を搭載しながら、米国での販売価格は499ドル(税抜約7万5,000円)と、米国の基準でいえば安価な価格設定がなされている。

低価格を実現している理由の1つはカメラにある。Pixel 9aのカメラは「Pixel 9」と同じ2眼構成ではあるのだが、イメージセンサーの性能を引き下げており、広角カメラが4800万画素、超広角カメラが1300万画素となっている。
カメラの性能が引き下げられたことで、従来のPixelシリーズから大きな変更が加えられている点もあり、それが背面のデザインである。Pixel 9aはここ最近のPixelシリーズで定番となっていたカメラ部分のバーがなくなり、カメラが2個並ぶシンプルかつフラットなデザインに変化しているのだ。

これには、カメラの性能を抑えたことでカメラ自体のサイズが小さくなり、出っ張りを抑えられたことが大きく影響したと考えられる。ただ、カメラの性能を高めれば出っ張りはどうしても大きくなってしまうだけに、Pixel 9aが今後のPixelシリーズのデザインを変える先駆けになるのかどうかを、現時点で見極めるのは難しい。
もう1つ、低価格に大きく影響しているのがRAM容量で、Pixel 9が12GBであるのに対し、Pixel 9aは8GBとなっている。このRAM容量の違いが大きく影響してくるのが、GoogleがPixelシリーズで特に力を入れているAI関連の機能だ。

実は、デバイス上で処理するAIはRAMを多く消費することから、AI機能強化のためにはチップセットだけでなく、RAM容量も非常に重要とされている。それゆえRAM容量が少ないPixel 9aは、端末に搭載された生成AIモデル「Gemini Nano」の性能が他のPixel 9シリーズよりも低く、「Pixelスクリーンショット」や「Call Notes」など、AI技術を活用した一部の機能が使えないようだ。
なぜGoogleが、Pixel 9aで低価格に強いこだわりを見せているのかといえば、アップルの「iPhone 16e」の存在が非常に大きく影響している。iPhone 16eは国内での販売価格が9万9,800円と、10万円近くに上昇したことで大きな失望を招いたが、米国での販売価格は599ドル(税抜)と、iPhoneの中では購入しやすい価格に設定されている。
アップルは例年、この時期に新機種を発表しないのだが、2025年は2月にiPhone 16eを発表したことからGoogleも早期に対抗策を打つ必要に迫られ、Pixel 9aの発表を前倒したと見られている。Pixelシリーズのaモデルは米国でも例年5月に発表されているのだが、Pixel 9aは2025年3月に大きく前倒した一方で、発売は4月とされていることから、競争力維持のためにも発表を急いだ様子を見て取ることができるだろう。
加えてGoogleの発表内容を見ると、「わずか499ドル」「500ドル以下」など、Pixel 9aの価格の安さを強くアピールしている箇所が目立っている。499ドルという価格は前機種「Pixel 8a」の発表当初の価格と同じだけに、低価格を維持してiPhone 16eより安いことを強くアピールし、顧客獲得につなげようとしていることが分かる。
だが一方で、非常に気になるのが日本での販売価格だ。日本語のGoogle StoreのWebサイトでもPixel 9aに関する言及がなされているほか、Google JapanのXアカウントでは2025年3月29日に、Pixelに関して何らかの発表をすることをほのめかすポストをしていることから、日本でもPixel 9aが発売されること自体は間違いないだろう。

それゆえ執筆時点では、その販路や価格が明らかにされていないのだが、その内容次第でPixelシリーズ、ひいてはGoogleの国内におけるスマートフォン事業の存在感が大きく変わってくると筆者は見ている。なぜならPixelシリーズはここ最近、日本での出荷台数シェアを大きく落としているからだ。
Pixelシリーズのシェアが急拡大したのは、Googleが独自のチップセット「Tensor」を初めて搭載した2021年の「Pixel 6」シリーズから。高性能なチップセットを搭載したハイエンドモデルながら7万円台という安さで大きな注目を集め、翌2022年に発売された低価格モデルの「Pixel 6a」では同じチップセットを搭載しながら、5万円台という安さで販売を大きく伸ばすこととなった。
加えて2023年発売の「Pixel 7a」では、コストパフォーマンスの高さに加え、NTTドコモからも販売され携帯大手3社が取り扱うようになったことで販売がより大きく拡大。他社が追随できない圧倒的コストパフォーマンスと販路の広さにより、短期間のうちに国内では主要メーカーの座を獲得したのである。
しかしながらその後、Pixelシリーズは徐々に値上がりが進み、2024年の「Pixel 8a」や「Pixel 9」シリーズでは、他社の同クラスの製品と変わらない値段になってしまったことで、市場シェアが急低下している。その理由は円安の長期化にあるといえ、長引く円安でGoogleも安値販売を続けることができなくなり、現実的な為替レートを反映させた結果、価格が大幅に高騰し顧客離れにつながったといえよう。

価格がGoogleのシェアに大きく影響してきただけに、Pixel 9aの価格設定がGoogleのシェアを非常に大きく左右する可能性が高い。Pixel 8aと同じ7万円台、あるいはそれより高い値段となってしまえば顧客離れは免れないが、円安の状況が大きく変わっていない以上、Googleとしても大きな損を出してまで安い値段をつけるわけにはいかないだろう。
とはいえ、国内ではその円安の長期化によるインフレで生活が苦しくなり、安さを求める人が一層増えているのが実情だ。それだけにGoogleが国内で大手の座を維持できるか、それともシェアを大きく落として存在感を失ってしまうかは、Pixel 9aの値付け次第といっても過言ではない。