新聞社がみんなこれをやるとどうなるだろう

イタリア全国紙「Il Foglio」、まるごとAI生成版「Il Foglio AI」を発行

Image:Zerbor / Shutterstock.com

1996年創刊のイタリアの新聞「Il Foglio(イル・フォッリョ)」が、すべての記事がAI生成で記述された「Il Foglio AI」を発行した。同紙のエディター、クラウディオ・セラサ氏は、生成AIが新聞の編集部においてどのように機能するかを実際に試すことで、この技術が将来のジャーナリズムに置いてどんな意味を持つのかという難しい問題をジャーナリストに投げかけるものだと述べている。

セラサ氏いわく、Il Foglio AIは「見出しから記事本文、引用、要約、そして時には皮肉に至るまでのすべてにおいて」「世界で初めて完全に人工知能で作られ、なおかつ新聞売り場で販売される日刊紙になる」という。ただし、AIツールに「質問して、その答えを読み」内容を確認する作業は記者が担当しているとのことだ。

記念すべきなのか否かはさておき、Il Foglio AIの創刊号の表紙はドナルド・トランプ大統領に関する記事が掲載され、「イタリア国内のトランプ支持者の矛盾した主張」について述べ、「キャンセルカルチャー」を強く批判する一方で、「米国における彼らのアイドルがバナナ共和国の独裁者のように振舞う」ときは、黙認するか、さらに悪いことに「祝福」さえすると記されていた。

ほかにも、紙面にはロシアのプーチン大統領に対する批判的見出しの記事や、イタリア経済に関する珍しくも明るいニュースとして国家統計局Istatが発行した所得再分配に関する最新の報告書を取り上げ、所得税改革によるプラス効果として約75万人の労働者の給与が増加したことを伝え、イタリアが「変化しており、それも悪い方向ではない」と述べている。

ただし、これらはすべてにおいて、人間が発した言葉を引用したものは含まれていない。読者からの投書までもが生成AIで記述されており、AIは将来人間を「役立たず」にしてしまうのかと問う内容になっている。当然、この質問への答えも生成AIで書かれ、その記述は「AI技術は素晴らしいイノベーションだが、意図した砂糖の量でコーヒーを注文する方法をまだ知らない」となっている。

テキスト生成AIは、AIが学習プロセスを経る際に見た素材を寄せ集めて、そこから新しいテキストを作り出す。そのため、取材に基づいて得られた情報を記事化する本来のジャーナリズムにはそれほど影響を与えないと考えられる。

一方で、広告収益モデルが当たり前となっているインターネット時代のメディアが発する情報に金銭を支払うという意識は、一般人には少ない。まして多くの企業にとって、最も負担が大きいのが人件費であり、可能な部分においてはAIを導入してコストを低減したいと考える報道機関・企業が増えてもおかしいことではない。

Googleをはじめとする巨大IT各社は近年、検索トピックに応じてAIがニュースサイトの記事から生成した要約をユーザーに表示して、読者を自社サイトから他のサイトに逃がさないような仕組みを構築している。だが、ニュースサイトの記事そのものもIl Foglio AIのように生成AIが書くようになれば、生成AIによるニュース記事をさらに生成AIが引用して記事を生成し、出所がはっきりしないニュース記事があちこちで見られるような未来になって行くような気もしないでもない。

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