面接チートツールは正義か悪か
リモート面接の不正AIツール、米国で蔓延。コーディング問題にAIが答案提供

コロンビア大学に通う21歳の学生、Chungin “Roy” Lee氏は、Amazon、Meta、TikTokからインターンシップのオファーを受けて、サンフランシスコへの引っ越しを決めた。しかしいま、彼はオファーしてきたどの企業にも就職しないようだ。
「今では誰もがAIの助けを借りてプログラミングをしている」とLee氏は述べ、独特なサービスを提供する自身のスタートアップ企業を設立したという。だがそのことについて、コロンビア大学は同氏に対する懲戒手続きに入ったとCNBCは伝えている。
学生が大学在学中に起業することは珍しいことではない。ではなぜ、大学はLee氏に厳しい対応を取ろうとしているのか?その理由は、彼が立ち上げようとしている会社が、AIを活用して顧客の就職面接に不正な利益をもたらそうという類いのものだからだ。
数年前のコロナ禍で、米国では就職面接をオンラインで行うリモート面接が普及している。リモート面接では、企業側は画面のなかの入社希望者と話をし、ときにその適性や業務スキルを見るために、課題を出し、リモート会議アプリのホワイトボード機能を使ってその場で回答させたりもする。
Lee氏はIT企業が実施するリモート面接においてカメラの外でAIツールを使って採用担当者に最善の回答を提供するという不正ツールを開発して、提供しようとしているわけだ。

Lee氏は不正行為をビジネスとして利用し、彼が開発したリモート就職面接用のAIアシスタント「Interview Coder」は、コードを生成して提供したり、既存のコードを改善したり、候補者が読める結果の詳細な説明を生成したりする機能を備える。コードの生成は迅速で、時間制限のある面接でも問題なく利用できるという。
当然ながら、企業の採用担当者はこのようなAIを使う不正行為を快く思ってはおらず、発覚すれば不採用になることは言うまでもない。面接官は応募者が自分のスキルを使っているのか、それともAIに頼っているのかを見極めることは大変だとCNBCに述べている。
だが、見抜くヒントもないわけではない。「Interview Coder」やライバルとなる「Leetcode Wizard」のような不正ツールを使っている受験者は、視線が頻繁に横方向に動いたり、微妙に質問に一致しない回答を返してくる場合があるという。そしてなにより、出題後しばらく固まったように動かず、「えーと」だの「うーん」といった問題を解こうとしているようには見えない仕草を見せた後に突然完璧な答えを出してくることが多いのだそうだ。
ちなみに、「Leetcode Wizard」のLeetcodeとは、企業が面接試験に出題するソフトウェアだが、その出題内容が実際の仕事には無関係な内容だったりパズルのようなものであり、それでいて受験者はLeetcodeの問題対策のために数百時間もかけなければならず、たいそう不評なのだそうだ。
話が脱線したが、技術職の採用試験をサポートする企業Techie Staffingによれば、リモート面接におけるコーディング問題に関して「コードは問題なさそうに見えても、どうやってその解答に至ったのかを説明できない者もいた」という。
ニューヨークのStudio.initのソフトウェア開発者兼共同設立者のヘンリー・カーク氏は、昨年6月に実施したエンジニア職の募集でバーチャルコーディングコンテストを開催したところ、700人が応募したという。だが、その第1次面接の過程を記録して不正行為をする候補者がいないか調べてみたところ「50%以上が不正行為をしていた」ことがわかった。専門家によると、AI不正ツールは過去1年間で受験者が視線を動かさずとも回答を提示できる「ウェブカメラ耐性」機能を搭載するなど、巧妙になりつつあり、検出が難しくなっているという。
この問題は米国の企業の間ではかなり蔓延しており、Googleのスンダー・ピチャイCEOは今年2月、採用担当者に就職試験の面接を対面方式に戻すことを検討するよう提案したという。
もちろんGoogle以外の企業もこの問題は把握している。たとえばデロイトは英国の大学院プログラムで対面面接を復活させた。 AIチャットボットClaudeの開発元であるAnthropicも、2月に出した求人応募書類に記したガイドラインで、採用プロセス中にAIアシスタントを使用しないよう応募者に求めた。 アマゾンも、AIによる不正行為に対抗するための措置として、受験者に無許可のツールを使用しないことを約束するよう求めている。
ただ、リー氏はCNBCに対し、企業が自社をAIファーストと宣伝したいのであれば、応募者にAIの使用を奨励すべきだと述べている。ソフトウェアエンジニアがテクノロジー業界の信頼を失うことを心配しているかと尋ねられると、リー氏はしばらく固まったように動かず「うーん」と小さく唸ったりぶつぶつつぶやいたりした後「私の考えでは、市場の変化への対応が遅い企業は損害を被るだろうが、それは企業側の責任だということだ」「より優れたツールがあるのなら、それよりも優れた代替手段を用意できなかったのは企業の責任だ。企業が適応できないことに便宜を図る必要はないし、罪悪感もまったく感じない」と答えた。
- Source: CNBC