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ネコがにおいを嗅いだときに変顔をする理由、専門家が説明

Image:I Wei Huang/Shutterstock

猫が何かのにおいを嗅ぐとき、時折あまりの臭さにショックを受けたかのような、奇妙な表情をすることがあるのをご存じだろうか。だがそれは、単ににおいが強烈だったからというわけではないようだ。

Cat Wellbeing and Behaviour Advisorという肩書きを持つ動物看護のベテラン、アレックス・テイラー氏によると、それは嗅覚とは別の、フェロモンを感知する器官によって現れる反応だという。

野生であろうがペットであろうが、動物の多くは、ある特定の行動や生理的変化を起こす化学物質を放出している。それがフェロモンだ。フェロモンは異性に対して影響を及ぼすものという印象を抱いている人も多いと思われるが、それは性フェロモンと呼ばれる類いのもので、他にも特に昆虫は集合フェロモン、警報フェロモン、道しるべフェロモン、密度調節フェロモンといった種類があり、特に昆虫でその効果を観察できることが多い。

かつては、人はフェロモンを発していないと考えられていた。だが1970年代に発表された論文の中には、米国の寄宿学校で、入寮後数か月を経ると、そこで暮らす女子学生の間生理周期が揃ってくる現象が報告されている。この論文では、生理期の女性が何らかの化学物質を発散し、それが周囲の女性にの生理周期に作用し、しだいに同じ時期に起こるようにする反応を起こしている可能性があるとされた。男性の場合も、尿や腋の下のにおいが、フェロモンとして作用していると考えられている。

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話をネコに戻そう。なにかにおいを嗅いだときにネコが表情を曇らせたように見えることがある理由として、テイラー氏は嗅覚系とは別の、フェロモンを感知する器官であるヤコブソン器官で化学信号を分析しているからだという。この鋤鼻(じょび)器官とも呼ばれるフェロモンセンサーの入り口が、ネコの場合は上唇の内側にある。そして、ネコがこの化学信号をより多く取り入れて情報を得ようとしたときに、意図せずして口を半開きにした、マヌケにも見える「変顔」を作ってしまうのだ。そして、この変顔を引き起こした状態のことをフレーメン反応という。

テイラー氏は「猫が顔をしかめているようにも見えるかもしれないが、この行動に感情的な意味合いはない。猫はただフェロモンを感知し、処理しているだけだ」と述べている。

ネコはにおいを嗅いだり何かを舐めたりしたときにフェロモンを感知し、それを唾液で溶解して、鋤鼻器官に取り込む。そして、フェロモンに反応した神経信号が脳の特定の領域、具体的には視床下部の扁桃体領域と、性行動、摂食行動、社会行動を制御する領域に伝わり、そのネコの行動に直接影響を及ぼすのだそうだ。

ネコはフェロモンによって発情期であるかどうかを周囲に認識させたり、縄張りの存在を示したり、親子の絆を強めたりするために利用されているとテイラー氏は説明する。それは本能的な反応であり、学習によって対処方法を変えられるにおいとは根本的に異なる作用だ。

ちなみにテイラー氏によれば、ネコはフェロモンを顎、頬、目と耳の間、唇の端、尻尾の付け根、性器と肛門の周り、足の間、乳首の間など体のさまざまな場所にある、特殊な腺から分泌しているのだそう。

ちなみにネコのヤコブソン器官は、犬のそれに比べて3倍もの種類のにおいを検出する能力があるという。そのため、嗅覚は犬が優れている一方で、フェロモンを検出する能力はネコの方が優れているのかもしれない。

ネコは犬に比べて常に、すべてを知っているかのように落ち着き払っているが、そのクールさに至る前には、少し間抜けな表情で周囲のフェロモンから辺りの情報を収集しているのかもしれない。

ちなみに人間は、鼻腔内にヤコブソン器官があった痕跡がみられるのみであり、その部分でなんらかの化学伝達について役割を果たしているという強力な証拠もないとのことだ。

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