高価なiPhoneを買ったのに広告を見せられるユーザー
アップル、マップなどiPhone標準アプリに広告を入れる予定か
アップルがiOS 14.5以降にアプリトラッキング透明性(ATT)を導入したことで、ユーザー追跡に基づいたターゲティング広告(嗜好に合わせた広告)の有効性が激減し、FacebookやTwitter、YouTubeなどが178億ドルの収益を失ったとの試算もある。それを考えると皮肉だが、アップルが広告ビジネスを積極的に拡大し、「マップ」などiPhone標準アプリにも広告を表示して稼ごうとしているとの噂が報じられている。
アップルの内部情報に詳しいBloombergのMark Gurman記者は、ニュースレター「Power On」最新号で同社の広告ビジネスについて語っている。それによれば、Appleの広告プラットフォーム担当副社長であるTodd Teres氏が、年間収益を現在の約40億ドル($4 billion)から「2ケタ」にすることを目標にしているという。つまり、少なくとも3倍は視野に入っているわけだ。
すでにアップルはApp Storeで検索したキーワードに対して、設定された広告が検索結果の上部に来る「Apple Search Ads」を展開している。Gurman氏いわく、同じようにマップアプリにも、スポンサー付きの検索結果を追加するテストを行ったそうだ。また将来的には、Apple BooksやApple Podcastsのストアにも広告が表示されるかもしれないという。
アップルの広告収入は、今のところ上記のApple Search AdsとApple News、「株価」アプリ(ニュースセクション)など、いくつかの分野から得られている。またApple TV+内でも、米メジャーリーグの「フライデーナイト ベースボール」との契約のため広告が表示されている。
それらに加えて、アップルはApp Storeで、より多くの広告が表示されるようになると予告済みだ。実際iOS 16のベータ版では、App Storeの初期画面であるTodayや、各アプリの製品ページの下にまで広告が表示されることが確認されている。つまり、いずれ「App Storeを開いたり、各アプリの説明を見るたびに広告が付いてくる」わけだ。
アップルのハードウェア販売は過去5年ほどにわたり成長が鈍化しているため、それを補うようにサービス部門を拡大し続けてきた。先日の決算説明会でもティム・クックCEOが新型コロナ関連の逆風が吹いていると言いつつ、App Storeでの広告をアプリ開発者のための「素晴らしい」発見ツールと呼んでいたのである。
Gurman氏は、アップルが自社プラットフォーム内で広告事業を拡大することにつき、2つの矛盾を指摘している。ひとつはプライバシーを最優先すると謳っているのに、自社の広告システムでは他のサービスやApple IDからのデータを使ってパーソナライズ(ターゲティング)していることだ。一応、こちらは設定アプリの [プライバシー] 内にある [Appleの広告] からオフにできる。
もう1つは、iPhoneは高価なプレミアムデバイスであり、その標準機能を使うたびに広告が表示されれば「アップルに搾取されている」という印象を与えかねないことだ。iOS 16が正式配信される秋には、ATTの直撃を受けたSNS各社(事実上のネット広告企業)や、1,000ドル以上を新型iPhoneに支払ったユーザーから批判が強まるのかもしれない。