バイオームならぬ…

性犯罪者を特定する新しい法医学「セクソーム」。DNAに続くハイテク科学捜査手段になる?

Image:maradon 333/Shutterstock,com

オーストラリア・マードック大学のブレンダン・チャップマン博士が率いる研究チームが発表した新たな研究によると、人の生殖器にある微生物叢の細菌構成は、指紋やDNAと同じように人それぞれにユニークであり、研究を重ねて法医学的に使用できるデータや分析方法が蓄積されれば、将来的に性犯罪者の特定にも役立つかもしれないという。

チャップマン博士とマードック大学、西オーストラリア大学、キッズ・リサーチ・インスティテュート・オーストラリアの研究者らで構成される研究チームはまず、研究ボランティアとして異性愛カップル12組を集め、全員の生殖器から微生物叢の検体を採取、RNA遺伝子配列解析によって各参加者が持つ微生物叢の構成や特徴をデータ化した。

そして、各カップルにはその日から2日~2週間のあいだ性行為を控えるよう依頼し、禁止明けに行為に及んだ数時間後、再び検体を採取して当初のデータと比較分析した。なお、潤滑材やコンドームの使用有無、剃毛の有無、男性の包皮切除歴の有無などは、それぞれの微生物多様性には優位な影響を残さなかったという。

分析の結果、女性の検体から出た遺伝子の特徴が、行為後は男性側の検体からも検出でき、その逆もまた検出可能であることがわかった。研究者らがセクソーム(Sexome)と名付けたこの変化は、コンドームを使用しても完全に防ぐことはできず、変化を検出できるため、将来的に性犯罪の捜査に役立つ可能性があるとチャップマン氏は述べている。

ただ、この方法の限界は、DNA鑑定ならばかなり時間が経ってからでもそれを特定できるが、セクソームの場合は特に女性のそれが一定期間内に大幅に変化してしまうこともわかった。そのため性犯罪捜査に用いるには、可能な限り早期に検査を行う必要があるかもしれない。

男性の場合は微生物叢が皮膚表面に見られるのに対し、女性のそれは体内にあるため、性別によって微生物叢を構成する細菌の種類は好気性と嫌気性のバランスが大きく異なる。

チャップマン氏は「これらの細菌の多くがパートナーの環境に移った場合、そこで永久に、生存することはできない」と述べている。仮に、付き合いが長く定期的に行為を繰り返しているカップルであるならば、ある程度は双方の微生物叢も均質化している可能性はあるが、あきらかに男女で異なる特徴が異なるとのことだ。

「すべての人のセクソームには、十分な多様性と固有性が含まれているが、法医学の課題に対応できるほど堅牢な技術でそれを実証するには、まだ少し作業が必要になる」とチャップマン氏は述べている。

今後の研究では、性行為後に移行したセクソームがどのくらい持続するか、また性行為によって乱れた生殖器の微生物叢がベースラインに戻るまでにどのくらいの時間がかかるかに焦点が当てられるだろう。

一方、研究に関与していないシドニー工科大学の研究者デニス・マクネビン氏は「細菌の遺伝子プロファイルは、性的暴行の疑いのある事件で何が起こったかに関する主張や証言を裏付けたり、反証したりできる可能性がある」とし、「細菌の遺伝子プロファイルは、将来、DNAによる証拠を補完したり、解析できるだけのDNAが採取できない稀なケースにおいて、性的暴行の加害者を特定するのに役立つかもしれない」と述べている。

ちなみに、内閣男女共同参画局の報告によれば、日本国内の2020~2022年の間の性犯罪・性暴力の認知件数は増加傾向にあるという。こうした研究の成果が犯罪解決や予防に役立つなら、早期の実用化に期待したいものだ。

関連キーワード: