【連載】佐野正弘のITインサイト 第145回
料金改定を相次いで発表するMVNO、ahamoの“30GBショック”に対抗できるか
2024年10月にNTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」が、料金据え置きのままデータ通信量を20GBから30GBに増量したことが大きな衝撃を呼んだ。これにKDDIやソフトバンクがオンライン専用プランやサブブランドで追随。中容量プランの実質値下げが進んだことは記憶に新しいが、そこで懸念が浮上していたのがMVNOである。
ahamo“実質値下げ”以降のMVNO動向
MVNOは「格安スマホ」の名称で知られる通り、料金が安い小~中容量のプランに強みを持つ。ただその一方で携帯大手にお金を払い、ネットワークを借りてサービスを提供しているという事業構造上、ahamoのように料金据え置きのまま通信量を増やしてしまうと利益が減少し、経営が厳しくなってしまう可能性がある。
それゆえ2024年中、ahamoの実質値下げに対抗したMVNOは、日本通信などごく一部にとどまっており、他のMVNOの出方が注目されていた。だが2025年2月初旬に入り、大手のMVNOから相次いで料金改定の動きが出てきているようだ。
一昨日2月4日にその動きを見せたのが、「mineo」を展開しているオプテージである。同社は2024年末に133万回線契約を突破し、MVNO大手の一角を占める存在として知られているが、mineoの新たな施策として同社が発表したのが、1つに「マイピタ」の50GBコースである。

マイピタは、データ通信量に応じて料金が設定されているスタンダードな料金プランで、従来は1GBから20GBまで4つの料金コースを提供していたのだが、今回それに加えて月額2,948円で50GBの通信量が利用できるコースを追加。さらにこのコースには、余った通信量を貯められる「パスケット」や、最大1.5Mbpsに通信速度を落とせばデータ通信が使い放題となる「パケット放題Plus」など、3つの有料オプションが無料で利用できる特典も付き、お得さが増している。
そしてもう1つ、新たに発表がなされたのが「マイそくプレミアム」の高速化である。マイそくは通信速度が制限されるものの、データ通信は使い放題となる独自色が強い料金プランである。
その中でもマイそくプレミアムは、月額2,200円で通常時は3Mbps、昼の混雑時は最大32kbpsでのデータ通信が可能だったのだが、今回は料金据え置きで通常時の通信速度を最大5Mbps、混雑時を最大200kbpsにアップデートするとのこと。これにより、通常時は高画質の動画ストリーミングが利用可能になるほか、混雑時でもスマートフォン決済くらいであれば利用可能だとしている。

そしてもう1社、大きな動きを見せたのが、「IIJmio」を展開しているMVNO最大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)である。こちらもオプテージの発表翌日となる2025年2月4日に料金プランの改定を発表しているが、その内容はmineoとはかなり違っている。
同社が発表したのは、IIJmioの主力料金プラン「ギガプラン」を全体的に改定し、実質的な値下げを図ることだ。ギガプランは通信量が2~50GBの8つのプランから構成されているのだが、これらのうち容量が大きい20~50GBの4プランを、それぞれ5GBずつ増量して25~55GBのプランに変更するという。
また5GBプランと10GBプラン、そして改定後の35GBプランは月額料金も引き下げるとしており、音声通話付きプランの場合、5GBプランは50円引きの月額950円、10GBプランは100円引きの月額1,400円、そして35GBプランは300円引きの月額2,400円となる。これらの改定は既存ユーザーにも適用されるだけに、お得感の高い改定となることは間違いない。

これら施策により、MVNO大手がahamo対抗策を強化したことは確かなのだが、MVNO側からすると、必ずしもahamoの実質値下げに対抗して料金引き下げを進めたというわけではないようだ。実際、オプテージのコンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部長である松田守弘氏は、mineoの新サービス発表会において、携帯大手の料金プランが30GBに増量したことが直接大きな影響に結び付いているわけではない様子を見せている。
これまでmineoは30GBのプランこそ提供していなかったが、マイピタであっても先に触れたパケット放題プラスなどで、元々の通信量より多くデータ通信を利用できる仕組みが整えられていた。それに加えてMVNOのサービスは、スマートフォンやモバイル通信に詳しい人が利用する傾向が強く、そうしたサービスを余すことなく利用しているユーザーが多いことも、影響を緩和する要因といえるだろう。
一方で、オプテージとIIJの発表内容を見るに、ともに訴えていたのがユーザーのデータ通信量自体が年々増加傾向にあることだ。とりわけ若い世代ではその傾向が顕著なようで、顧客満足度を高めるためにも、先を見越して通信量を増やす必要があったとしている。

そしてMVNOの場合、携帯大手からネットワークを借りる際に支払うモバイル接続料は、今後一時的に値上げが生じる可能性もあるが、基本的には毎年下落傾向にある。それゆえ携帯大手と比べるとやや時間はかかるものの、接続料引き下げを見越し通信量の増量などに踏み切るMVNOは、これから増えてくる可能性が高そうだ。

とはいえ大容量ニーズの高まりは、MVNOが最も得意とする3~5GB前後の小容量プランの需要を減らし、現在でいうところの中容量プランに移行を進めることにもつながってくる。
そこはahamoなどで携帯大手が力を入れており、競争が非常に激化している領域でもあるので、MVNOは苦戦を余儀なくされる可能性が高い。MVNOにとって厳しい時期はまだまだ続く、というのが筆者の正直な見方である。