ストリーミング2.0とはなんぞ

ユニバーサルミュージックがSpotifyと複数年契約締結。『ストリーミング 2.0』を推進

Image:Spotify

Universal Music Group(UMG)が、音楽ストリーミングサービスのSpotifyと複数年契約を結んだと発表した。年数などは言及されていないが、UGMの会長兼CEOルシアン・グレインジ卿はこの契約が「まさにこれが私たちが思い描いていたパートナーシップの展開」であり、昨年投資家に提示した『ストリーミング 2.0』のビジョンに一致していると発表文で述べている。

グレインジ卿の言うストリーミング2.0は、具体的には音楽への早期アクセスや限定デラックスエディション、ハイレゾ音源、リスニングパーティへの招待、アーティストのQ&Aセッションなど、特に熱心な音楽ファンを対象とした「スーパープレミアム」プランの提供などがうたわれている。

UMGとSpotifyは、新しい契約においてストリーミング革新の次の時代を前進させるために緊密に協力し「アーティスト、ソングライター、消費者は、新しく進化するオファー、新しい有料サブスクプラン、音楽と非音楽コンテンツのバンドル、より豊富なオーディオおよびビジュアルコンテンツカタログの恩恵を受ける」としている。

Spotifyと言えば2023年秋に、いくつかの国でPremiumプランに月間15時間分のオーディオブックリスニングを追加したが、この変更は作曲家にとっては支払い料率が低くなることを意味していため、権利所有者らが非難の声をあげ、全米音楽出版社協会(NMPA)は昨年6月にSpotifyを相手に訴訟を起こした。また、Sony Music PublishingもSpotifyの著作権使用料の変更を批判し、異議を申し立てる選択肢も検討したとされている。

しかし、今回のUMGとSpotifyの契約では、NMPAは著作権使用料率を上げる「ようにも見える」、「これは業界全体にとって良いニュース」だと述べている。Sony Music PublishingがSpotifyと同様の契約について交渉しているのかは不明だが、追随するようなら音楽業界の収益構造がまた変化する可能性はある。

音楽出版業界は、かつてはアナログレコードやカセットテープ、CDといった物理媒体に記録したコピーを販売することで莫大な収益を得ていたが、インターネットとiPodの普及によってiTunesに代表される音楽ダウンロードが物理媒体に取って代わるようになっていった。一方で、MP3などの圧縮音楽フォーマットによって音楽の違法ダウンロードが氾濫するようになり、録音音楽全体の売り上げに影響を及ぼすようになってきた。

そんななかで登場した音楽ストリーミングサービスは、違法ダウンロードを撃退するには良かったものの、楽曲1再生あたりの使用料金は0.003~0.005ドルと非常に少なく、作曲者に支払われる金額はそこからさらに著作権者がそれぞれの権利分を差し引いた金額になってしまった。ざっとこのような背景から、最近のミュージシャンは録音音楽を売ることよりも、コンサートツアーやマーチャンダイズ販売を収益の柱に据えるようになっていった。

だが、エンタメ情報サイトのVarietyによると、コロナ禍を経た近年では、大物アーティストでさえコンサートツアーのチケット売り上げが減少傾向にあるという。その理由が肥大化するステージセットに伴うチケット価格の高騰なのか、多様化するエンタメ業界のなかで消費者の音楽離れが進んでいるからなのか、それ以外にあるのかは不明だ。

一方でForbesは、Spotifyのダニエル・エクCEOの純資産が74億ドルと推定されると伝えている。おそらく現在の音楽業界から最も恩恵を受けている一人と言えるだろう。ミュージシャンのビョークは最近、スウェーデンのメディアDagens Nyheterのインタビューに応じ「Spotifyはおそらくミュージシャンに起こった最悪の出来事だ」と述べている。

グレインジ卿は、今回のUMGとの契約により、レーベルや音楽出版社とSpotify とのコラボレーションがさらに深まるとともに、アーティスト中心の原則が前進し、ソングライターの収益化が促進されるとともに、消費者向けの製品提供も強化されると述べている。

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