【連載】佐野正弘のITインサイト 第143回

薄型モデルとAIでアップル対抗軸を強化、現地で見た「Galaxy S25」シリーズの狙い

韓国サムスン電子は、日本時間の1月23日未明に、米国・サンノゼで新製品発表イベント「Galaxy Unpacked」を実施。フラグシップスマートフォンの最新モデル「Galaxy S25」シリーズなどを発表している。

サムスン電子は日本時間の1月24日未明に、米国で「Galaxy Unpacked」を開催、新しいフラッグシップモデル「Galaxy S25」シリーズを発表している

サムスンの新たなフラグシップ「Galaxy S25」シリーズを紐解く

今回発表されたGalaxy S25シリーズは、スタンダードモデルの「Galaxy S25」と、日本では発売されない大画面モデルの「Galaxy S25+」、そして「Sペン」を内蔵した最上位モデルの「Galaxy S25 Ultra」。今回はそれらに加えて、新たに薄型モデルの「Galaxy S25 Edge」が投入されることが明らかにされており、そちらがハード面で最も大きなトピックといえるだろう。

Galaxy S25 Edgeのスペックや発売日、地域などに関して具体的な発表はなく、会場でも実機に触れることはできなかったのだが、薄さをかなり重視したモデルとなるようだ。実はGalaxy S25も7.2mmと、前機種の「Galaxy S24」(7.6mm)と比べかなり薄くなっているのだが、展示されていたGalaxy S25 Edgeを見る限り、それと比べてもかなりの薄さを感じさせる。

サプライズとして発表された「Galaxy S25 Edge」。薄さに重点を置いたモデルとなるようだが、その詳細については明らかにされなかった

実は、同社が薄型のスマートフォン新機種を出すという噂は以前から挙がっていたのだが、その名称は「Slim」と予想されていた。それだけに、カーブドディスプレイを採用した往年の「Edge」モデルの名が付けられたことには、会場内でもかなり驚きの声が挙がっていた。

なぜ現在のタイミングでサムスン電子が薄型モデルを投入するに至ったのかといえば、競合となるアップルの存在が大きいだろう。実はここ最近、アップルが薄型のiPhoneを投入する可能性が高いとの噂が多く流れており、今後薄型モデルの需要が高まるとみて、サムスン電子もキャッチアップに動いたのではないかと考えられる。

とはいえ、現時点ではGalaxy S25 Edgeに関する詳細な情報は発表されておらず、当然のことながら日本での発売は不明だ。それだけに今回の発表の主軸は、やはり先に触れたGalaxy S25シリーズ3機種ということになるだろう。

実はこれら3機種をハード面だけで評価すると、前機種の「Galaxy S24」シリーズと比べ、大きく変わっているわけではない。3機種とも、Galaxy S25 Edgeほどではないとはいえ薄型化が図られ持ちやすくなっているほか、チップセットにクアルコム製の最新ハイエンド向けとなる「Snapdragon 8 Elite for Galaxy」を搭載。望遠カメラだけでなく超広角カメラも5,000万画素と高画素化がすすめられ、マクロ撮影に強くなるなどの性能向上をしているものの、ある意味で非常に順当な進化といえるもので、驚きは少ない。

「Galaxy S25 Ultra」のカメラ。超広角カメラの画素数が5,000万画素に強化されているが、ハード面の進化よりもAI技術を活用した機能進化に重点が置かれている印象だ

ではサムスン電子が、Galaxy S25シリーズで最も重きを置いている要素は何かというと、それはAIである。サムスン電子は2024年のGalaxy S24シリーズから「Galaxy AI」を謳い、スマートフォンに向けてAI技術を活用した機能を積極搭載して強化を図っていたが、Galaxy S25シリーズはある意味で、従来とは異なる形でAI機能の強化を図っている。

それがGoogleとの連携強化である。Googleとサムスン電子による連携といえば、Galaxy S24シリーズでいち早く導入された「かこって検索」が思い起こされるところだが、Galaxy S25シリーズではその連携がより深化。「Samsung Notes」などGalaxyシリーズの独自アプリと、GoogleのAIアシスタント「Gemini」が連携できるようになっている。

それに加えてGalaxy S25シリーズでは、Geminiを使ったアプリ間のシームレスな連携ができるようになった。例えば、おすすめのレストランを友達にメッセージで送る場合、従来であればまずレストランを検索して調べた後、それをメッセージアプリに貼り付けて友達に送るという作業が必要だった。つまり「検索」「メッセージ」という2つのアプリを使う必要があったわけだ。

だがGalaxy S25シリーズであれば、電源キーを長押ししてGeminiを呼び出した後、「おすすめのレストランを調べて友達にメッセージして」などと話しかけることで、レストランを調べて友達にメッセージを送るといった一連の作業をこなしてくれるという。複数アプリの連携を実現したことで、AIエージェントとしてのGeminiの優位性が大きく高まったといえるだろう。

Galaxy S25でGeminiを呼び出し「おすすめのレストランをノートに書き出して」と指示したところ。まず「Googleマップ」でおすすめのレストランを数件ピックアップする
続いてそれを一覧にして「Samsung Notes」に書き出す。ひと言の指示で複数のアプリにまたがった処理をこなしてくれることが分かる

また、Galaxy S25独自のAI機能も強化されており、代表的な新機能に挙げられるのが「Now Brief」である。これは、ユーザーの生活パターンや嗜好に合わせてAIが情報をパーソナライズ化し、時間に応じた情報を提案してくれるもので、朝であれば、その日の睡眠スコアや天気予報、その日誕生日を迎える人などを伝えてくれるし、夜であれば明日の予定や天気などが表示、確認できるという。

「Now Brief」はAIがユーザーの情報をパーソナライズ化し、朝や夜などその時間帯に適した情報をピックアップして表示してくれる機能だ

そしてサムスン電子は、これら機能を同社のインターフェースである「One UI」の新バージョン「One UI 7」に標準搭載するとしている。自社スマートフォンのインターフェースにAIを活用した機能を積極的に取り込むことで、スマートフォンとAIをより深いレベルで融合させようとしていることが分かるだろう。

同種の取り組みは、既に米アップルが「Apple Intelligence」で実施しようとしているもの。そのライバルとなるGalaxyシリーズが、その動きをしっかりキャッチアップしつつ、さらに上を行く取り組みを実現しようとしている点には驚きがある。だが、そこにはサムスン電子だけでなく、スマートフォンのOSとAI技術に大きな強みを持つGoogleとのパートナーシップがあるからこそだといえよう。

AIを活用した一連の機能は「Oue UI 7」に搭載され、今後Galaxy S25シリーズ以外でも利用できるようになるとのこと

サムスン電子とGoogleは、かこって検索やGeminiだけでなく、Googleが開発しているXRデバイス向けOSの「Android XR」を搭載したデバイスの開発でも協力関係にある。そこに大きく影響しているのは、やはりアップルの存在だろう。

サムスン電子はGoogleが開発している「Android XR」に対応したデバイスの開発も進めており、両社の提携関係がより深まっている様子を示している

サムスン電子とGoogleは、スマートフォンやAIでアップルと直接的な競合関係となっているが、単独で対抗するには弱みがあるのも確かだ。Googleも日本では「Pixel」シリーズのスマートフォンで大成功しているが、米国をはじめ他の多くの国では存在感を示すことができていないだけに、ハードウェアに強くスマートフォンで世界的に高いシェアを持つサムスン電子の協力が不可欠と判断し、協力を進めているのだろう。

サムスン電子はAIなどでGoogleとの関係を強化しており、アップルへの対抗姿勢を見せている様子がうかがえる

とはいえ、スマートフォンでサムスン電子のライバルとなっているのはアップルだけではない。とりわけ最近では中国メーカーが急速に技術力を高めており、ファーウェイ・テクノロジーズがサムスン電子より先に、本体を3つに折り畳めるスマートフォンを開発・販売するなど、優位性を発揮するケースも見られるようになってきた。

それだけにサムスン電子には、AIだけでなくハード面での強化も求められるところだ。今回は新機軸としてGalaxy S25 Edgeを打ち出したが、より踏み込んだハードウェア面での強化策も、今後求められるところではないだろうか。

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