【連載】佐野正弘のITインサイト 第7回

日本でもシェア急拡大中の中国Xiaomi、一層の成長に不可欠なこととは?

日本市場のシェア拡大を図っている、中国メーカーのXiaomi

2019年末に日本市場への進出を果たして以降、積極的な製品投入でシェア拡大を図っている中国のXiaomi(シャオミ)。世界的に高いシェアを持ち価格競争力に強みを持つ一方、国内への参入はかなりの後発で、現時点では一般消費者に対する知名度は高いとはいえません。

そこで同社は、家電量販店やMVNO向けなどを主体としたオープン市場(以前の「SIMフリー」)向けを中心に、低価格ながら高いパフォーマンスを備える「Redmi Note」シリーズを主軸に積極投入しています。その勢いは2022年も止まらず、短期間のうちに積極的な製品投入を続けているようです。

実際2022年3月には、4Gモデルの「Redmi Note 11」をオープン市場向けに投入したほか、4月には5G対応の「Redmi Note 10T」をオープン市場、そしてソフトバンク向けに投入。さらに5月19日には、5G対応でカメラ性能を強化した「Redmi Note 11 Pro 5G」を、オープン市場と楽天モバイル向けに提供することを発表しています。

疑問の声も挙がった日本市場への参入、それでも短期間で支持を得た要因とは

当初は参入に疑問の声も多かったXiaomiですが、短期間のうちに日本市場で支持を得た要因の1つは、やはりコストパフォーマンスの高さです。Xiaomiは高い世界シェアと販路を持ち、部材調達などに大きな優位性を持つことから、とりわけ数がものを言う低価格帯の製品で強みを持っているのは確かです。

新たに発表されたRedmi Note 11 Pro 5Gも、6.67インチでリフレッシュレート120Hzの有機ELディスプレイと、約1億800万画素のメインカメラを含む3眼のカメラ、そして67Wの急速充電に対応。それでいてオープン市場では4万4,800円と、5万円以下で販売されるとのこと。昨今のインフレや円安などの傾向を考慮するならば、一層お得な価格設定となっていることが分かります。

Redmi Note 11 Pro 5Gは価格が4万円台ながら、1億800万画素のカメラを搭載するなど高い性能を備えている

しかも日本市場においては、低価格帯に強みを持っていた中国のHUAWEI(ファーウェイ)が米国から制裁を受け、Androidスマートフォンの開発が難しくなったことから、低価格帯の市場に一時大きな穴が空いてしまっていました。そこにうまく入り込んだのがXiaomiや、同じ中国メーカーのOPPO(オッポ)であり、短期間での成長には市場変化のタイミングをうまくつかんだことも大きく影響したといえます。

ですが日本市場は、防水やFeliCaといった独自のニーズが強いことに加え、品質やサポートなどに対するこだわりが強い消費者が多いことから、海外メーカーからはコストパフォーマンスだけでは勝ち抜けないとの声が多く挙がる、難しい市場とされています。それでもなお、Xiaomiが短期間で支持を得た理由にはもう1つ、日本市場に向けた積極的なローカライズも挙げられるでしょう。

実際Xiaomiは、参入からおよそ1年後の2021年3月にソフトバンク向けに提供した「Redmi Note 9T」で、初めてFeliCaに対応。さらに同年8月には、FeliCaに加えIP68の防水・防塵性能に対応した「Redmi Note 10 JE」をKDDI向けに提供しています。Redmi Note 11 Pro 5Gも、防水性能こそIP53と防滴レベルにとどまりますが、FeliCaは対応していますし、Redmi Note 10Tに至っては、オープン市場向けながら防水・防塵性能とFeliCaの両対応を実現しています。

2022年4月に発売された「Redmi Note 10T」。オープン市場向けにも投入されたモデルとしては初めて、FeliCaと防水性能を両立したモデルで、価格も販路によって異なるが2~3万円台とリーズナブルだ

同じく、日本向けのローカライズには積極的に取り組んできたオッポでさえ、フラッグシップの「Find」や低価格帯の「A」シリーズでは、FeliCaなどへの対応をしていません。それだけに、幅広い製品のローカライズで日本市場への注力を打ち出すXiaomiの姿勢が、日本のユーザーから支持を得たことは間違いないでしょう。

さらなるシェア拡大に向けた、今後の課題と新たな戦略

とはいえ、Xiaomiが日本市場で大きなシェアを持つようになったかといえば、まだそうではないのも確か。新興の中国メーカーということもあって、一般消費者に対する知名度やブランド力は高いとはいえませんし、携帯3社やMVNOなどからの支持を得たとはいえ、販路にもまだ課題があります。

そうしたことからXiaomiは2022年、日本でブランド認知を拡大するためのプロモーションを積極化すること、そして販売チャネルを拡大することを打ち出しています。とりわけ後者に関しては、海外で展開している独自店舗の展開が注目されるところですが、日本で店舗をイチから展開するには時間がかかることから、まずはストアインストアなどの形で展開することを検討しているようです。

そしてもう1つ、日本市場に向けたXiaomiの新たな戦略として、Redmi Note 11 Pro 5Gの発表に合わせて打ち出されたのが「Xiaomiモノづくり研究所」です。これはXiaomiのユーザーに向けたイベントで、ユーザーから製品のフィードバックを集めたり、製品のプランニングをしたり、βテストをしてもらったりするものになります。

シャオミが新たに日本での実施を打ち出した「Xiaomiモノづくり研究所」。ユーザーから直接製品のフィードバックを得たり、製品のプランニングに意見してもらったりする場となるようだ

元々オンライン専業メーカーだったXiaomiは、以前よりユーザーとのコミュニケーションを強めファンを醸成することに力を入れており、海外ではファンイベントなどを通じて意見を製品に反映する施策を実施していました。Xiaomiモノづくり研究所は、同様の取り組みを日本で展開するもので、日本の消費者と直接コミュニケーションし、製品にそれを反映させようとしている様子が見て取ることができます。

こうした取り組みは、一層のローカライズにつながるだけでなく、ファンの忠誠心を高めることにもつながってきます。日本ではブランド力の弱いXiaomiが確実な支持を得て、口コミなどで評判を得ていく上で重要な意味を持つことになりそうです。

ですが、そうした取り組みをもってしてもなお、Xiaomiには日本市場でより大きなシェアを獲得する上で、大きな壁が1つ存在します。それはNTTドコモへの製品供給です。

というのも現在、NTTドコモは中国メーカー製のスマートフォンを販売しておらず、2022年夏モデルとして発表されたスマートフォン新機種は、日本メーカーと韓国のサムスン電子製のみ。中国メーカーが強みを持つモバイルWi-Fiルーターに関しても、最近ではシャープから調達するようになるなど、中国メーカー製品の採用をあえて避けている様子がうかがえます。

NTTドコモの2022年夏の新製品ラインアップは日本と韓国メーカーの製品で占められており、中国メーカーの姿はない

NTTドコモはかつて、ZTEやファーウェイといった中国メーカーとタッグを組んでラインアップ強化に動いたものの、いずれのメーカーも米国からの制裁を受けたことで混乱が発生しただけに、その時のトラウマが影響している部分もあるかもしれません。ですが、より大きな影響を与えているのは、2020年に日本電信電話(NTT)による完全子会社化がなされたことではないかと考えられます。

なぜなら、NTTの最大の株主は「政府および地方公共団体」、つまり日本政府だからです。米中対立が激しくなる中にあって、完全子会社化により、米国の同盟国である日本政府が大株主であるNTTの影響力を強く受けるようになった結果、中国メーカー製品の採用を避けるようになったと見るのが自然でしょう。

Xiaomiがローカライズを積極化しているのも、そうした政治的影響を和らげる狙いがあるのかもしれませんが、それがどう判断されるかはやはりNTTドコモ、さらにはその裏にいるNTTや日本政府次第ということになるかもしれません。端末メーカーの競争にも政治が絡んできてしまうというのは、なんとも複雑な心境にさせられるところです。

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