【連載】佐野正弘のITインサイト 第142回

折り畳みスマホ新機種で「nubia」ブランドを本格展開、ZTEに勝算はあるか

新年早々、スマートフォンの新機種を発表したのが中国の中興通訊(ZTE)だ。同社の日本法人であるZTEジャパンは、おととい1月14日に新製品発表イベントを実施、「nubia」ブランドのスマートフォンやタブレットなど3つの新機種を発表している。

ZTEジャパンは2025年1月14日に新製品発表イベントを実施、折り畳みスマートフォンや低価格のタブレットなど3機種の日本市場投入を発表している

「nubia」ブランド本格展開に向け、新たな施策を打ち出すZTE

そもそもZTEが、日本市場でnubiaブランドを掲げた製品を投入したのは、2024年とごく最近のこと。同社は2018年に米国で制裁を受け、日本でも端末事業などに大きな影響が生じたが、制裁解除以降徐々に事業を再開し、5年が経過したことで再び日本市場の積極的な開拓に踏み出すべく、同社の傘下企業であるヌビアテクノロジーのnubiaブランドを掲げ製品展開に至ったのである。

その第1弾として投入されたのは、低価格の折り畳みスマートフォンの「nubia Flip 5G」など2機種で、価格面では非常に大きなインパクトをもたらしている。だが、nubiaブランドを冠した製品が投入されたのは販売数が少ないオープン市場のみで、しかもブランドの認知向上に向けたプロモーションが限定的だったこともあり、存在感を大きく高めるには至っていない。

それだけに2025年、ZTEは日本市場での存在感を高めるため、いくつか新しい施策を打ち出している。その1つが製品の強化であり、中でも力が入れられているのがnubia Flip 5Gの後継モデル「nubia Flip 2」だ。

国内におけるZTEの「nubia」ブランド第2弾となる折り畳みスマートフォン「nubia Flip 2」。前機種の評価を踏まえ、端末としての完成度がより高められている

nubia Flip 2がnubia Flip 5Gから大きく変わった点の1つは、サブディスプレイだ。nubia Flip 5Gのサブディスプレイは円形でサイズが小さく、動作させられるのは専用のウィジェットのみに限られていたのだが、nubia Flip 2は3インチの縦長ディスプレイに変更。直接スマートフォンアプリを動作させられるようになり、本体を開くことなく多くの機能が利用できるようになった。

背面ディスプレイは円形から3インチの長方形へと大きく変化。それに伴いスマートフォンの一般的なアプリをそのまま動作させられるようになった

また本体の堅牢性を向上させたことも、大きなアピールポイントとなっているようだ。nubia Flip 5Gでの経験から、消費者が折り畳みスマートフォンに対して抱いている不安要素は1つに価格、そしてもう1つは一般的なスマートフォンより壊れやすいイメージがあることだとZTEは分析。そこでnubia Flip 2では、本体を30万回開閉してもヒンジが壊れないなど壊れにくさに注力して開発を進めてきたという。

壊れやすさに対する不安にこたえるべく本体の堅牢性も強化、30万回開閉しても壊れないヒンジの耐久性がアピールされていた

一方でnubia Flip 5G同様、FeliCaを搭載するなどローカライズには積極的に取り組んでいるほか、昨今多くのスマートフォンメーカーが対応しているAI技術を活用した機能のキャッチアップも進めている。nubia Flip 5Gと比べても完成度が高まっていることは間違いないだろう。

2つ目の施策は、販売パートナー、より具体的に言えばソフトバンクとの関係強化である。ZTEは米国からの制裁解除以降、国内では主にソフトバンクとの関係を強化しており、中でも販売の主体となっているのが同社のワイモバイルブランドである。

実際ソフトバンクは2019年の「Libero S10」以降、「Libero」ブランドを冠したZTE製のスマートフォンをワイモバイルブランドから販売しており、ZTEは同ブランドのラインナップを支える主力のメーカーとなってきている。2024年にはnubia Flip 5Gの一部の性能を引き下げ、6万円台という低価格を実現した折り畳みスマートフォン「Libero Flip」をワイモバイルブランドから先行販売しており、そうした点からも両社の関係が深まっている様子を見て取ることができるだろう。

だが、Liberoというブランドはソフトバンクのみで展開していたものであるし、低価格帯の製品が主体だったことからブランド認知の低さが課題となっていた。

そこで今回の新機種は、Liberoブランドではなくnubiaブランドをそのまま取り入れ、nubia Flip 2と「nubia S 5G」をワイモバイルブランドから販売するとのこと。ZTEはnubia Flip 2の投入に合わせて、俳優の山崎賢人さんを起用したテレビCMも展開するとしており、ソフトバンクの協力を得てnubiaブランドの本格展開を進めようとしていることが分かる。

ワイモバイルなどで展開していた「Libero」は知名度の低さが課題だったことから、ZTEはソフトバンクの協力も得てnubiaブランドの全面展開を進めるようだ

一方のソフトバンクも、nubia Flip 2などの発売に合わせ、新たな販売支援策としてワイモバイルで「新トクするサポート(A)」の提供を打ち出している。これは48回払いでスマートフォンを購入し、25か月目以降に端末を返却することで残りの端末代金の支払いが不要になる、端末購入プログラムの一種だ。

「新トクするサポート」は、メインブランドのソフトバンクブランドで既に展開しているが、円安や政府によるスマートフォン値引き規制の強化によってスマートフォンの高騰が著しいことを受け、サブブランドのワイモバイルでも展開するに至ったようだ。実際、ワイモバイルでのnubia Flip 2の販売価格は8万5,680円と、Libero Flip 5Gの発売当初の価格と比べ2万円以上高騰しているが、新規または乗り換えで購入し、なおかつ料金プランに「シンプル2 M/L」を選べば、新トクするサポート(A)の適用により実質1万9,680円と、かなり安く利用できる。

ソフトバンクはワイモバイルでも端末購入プログラム「新トクするサポート(A)」を開始。nubia Flip 2はこれを適用することで、新規・乗り換えなどの条件をクリアすれば実質1万9,680円で利用できるという

ZTEは元々低価格帯のスマートフォンに強く、インフレの進行で消費者の節約志向が強まっている現在の状況が、同社にとって日本でシェアを拡大する好機であることは間違いない。

ただ同社は日本市場で従来、Liberoシリーズのように携帯電話会社のブランドで販売される端末を供給することに専念してきた。それゆえ同じ中国メーカーの競合と比べても、自社単独でのプロモーションやマーケティングには弱さがある。

それだけに、nubiaブランドで販売拡大を図ろうとしている同社には、製品力の強化だけでなく販売面での戦略強化が強く求められ、有名俳優を起用したマスメディア向けのプロモーションはその第一歩なのだろう。

だが一方で、ブランドの象徴となるフラッグシップモデル「nubia Z70 Ultra」が、新製品発表イベント翌日となる1月15日に販売代理店のFastlane Japanから国内発売されることが発表されるなど、販売戦略にちぐはぐな面も見受けられる。このような点においても改善が求められるところではないだろうか。

発表会の翌日には、販売代理店のFastlane Japanが「nubia Z70 Ultra」の国内販売を発表しており、nubiaブランドのスマートフォン販売元が複数存在する状況となってしまっている

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