そこに価値はあるのか
AIが送る微妙なクリスマス?YouTubeやSpotifyにAI生成楽曲、AI疑惑アーティストが湧く
生成AIブームの下、インターネット上には様々なAI生成コンテンツが投稿されて盛況だが、いまだそれらのなかには余分な歯や指、聞いたことのあるフレーズ、見たことのあるシーンが不気味な不自然さとともに紛れていることも多く、特に音楽やイメージ方面では著作権などに絡む争いごとも発生している。
そして、1年の終わりの一大イベントであるクリスマスにも、一瞬自分の脳がバグったのかと勘違いさせられそうな、微妙で不自然なAI生成と思しきコンテンツが発見されていると404 Mediaが伝えている。
たとえばビデオゲーム開発者のKarbonicは、YouTubeに投稿されたクリスマスソングアルバムのなかにAI生成の特徴が紛れ込んでいるのを発見した。
この動画は、なにも考えずにBGMとして流している分には、単に録音年代が古いクラシックなクリスマスソングアルバムを装っているが、楽曲名とアーティスト名の表示順が局によってまちまちだ。そして36分35秒あたりでは、かのナット・キング・コールの歌唱による「O Little Town of Bethlehem」という曲であることになっているが、そのメロディには「きよしこの夜」が紛れ込んでいる(比較のための原曲へのリンク:https://www.youtube.com/watch?v=EHKORmpW4Cg)うえ、ヴォーカルもナット・キング・コールには聴こえない。
また、53分14秒に始まる「O Holy Night」という曲は、Nei Diamondの歌唱ということになっているが、これはニール・ダイアモンドの名前をAIが曖昧に覚えて出力したようだ(単にタイポかもしれないが)。楽曲も原曲とは似ても似つかないうえ、ヴォーカルは性別まで違う。
これらはほんの一例であり、通しで探せばアラはいくらでも見つかる。この動画をアップロードしている「Holiday Serenade Library」というチャンネルには、明らかにAI生成で作られたクリスマス動画が大量に公開されており、そのなかには駆け回る愛らしい子どもたち(口ひげ付き)や、探せば火の付いたソリを燃えながら引くトナカイなど、AI生成であるにしても、もう少し真面目にチェックしたらどうかと思わせるカットもみつかる。
AI生成コンテンツがすべて悪いというわけではないが、適当に生成した、明らかに不自然なところすら修正せずにそのまま公開されたコンテンツは、アートというよりは “ゴミデータ” に近いというほかない。
AI生成コンテンツ掲示板サイトのRedditには、Spotifyにクラシックヒット曲の低品質なカバーがあり、歌唱も演奏も酷いものであるにもかかわらず何百万回も再生されているのを発見、これらのアーティスト(Dean Snowfield、North Star Notesmiths)がAIの疑いがあると投稿されている。この投稿の返信には、同じようなAI疑惑アーティスト(Sleighbelle、Frosty Nights、The Humbugs、Snowdrift Sleighs、Daniel & The Holly Jollies etc…)が続々とみつかり、その正体をググってみてもよく似た文章で書かれたSpotifyのプロフィール以外、ほとんどなにも出てこないとの報告が相次いでいる。
こうしたAI疑惑アーティストの楽曲はたどたどしい歌唱や微妙な演奏であるにもかかわらず、著名アーティストを集めたクリスマスソングの片隅に紛れ込む格好で含まれ、再生回数を稼いでいるようだ。これは今年に始まったわけではなく、昨年のクリスマスにも同様のAI疑惑アーティストが大量に誕生していたと、音楽製作エージェンシーのThird Bridge Creativeは述べている。
また上で紹介したAI疑惑アーティストの多くが、Spotifyのプロフィールでは皆、ワーナーミュージックのADAレーベルと契約している。ADAレーベルのウェブページにはADAが「ワーナーミュージックグループのレーベルサービス部門で、まったく新しいアーティストを発掘し、業界のレジェンドをサポートしている」とされているが、404Mediaの問い合わせに対してこのレーベルは返答していない。
これらのアーティストはすべてAIによるものだと断定することはできない。404 Mediaの記者はDean Snowfieldにコンタクトを取ってみたところ、本人とされる人物からSNSにコメントがあったそうだが、記者からのフォロー申請はスルーされたとのことだ。
チップチューンや、CG / アニメ映画のように、表現そのものが本物でなくとも、人が手を加えて製作し、そこに製作者の心がこもっているものは、アートやエンターテインメント作品として認められるものだが、今回の話題のような作品やアーティストらは人々に感動ではなく違和感を与え、感銘ではなく微妙な気味悪さ、後味の悪さを覚えさせる。そこに価値があるのかはわからない。
しかし、動画または音楽ストリーミングサービスの側がこうしたコンテンツでも再生数さえ伸びれば収益化できる仕組みであるうちは、AI疑惑アーティストやAI生成コンテンツはなくならないように思える。