Snapdragon 8 Eliteにも影響が及ぶ可能性も

Arm、クアルコムが年間5000万ドル支払い不足だと主張。Snapdragon Xチップの破棄を求める

Image:Ascannio/Shutterstock.com

英Armが米クアルコムに対して、自社知的財産権(IP)を使ったチップ設計を許可するALA(Architectural License Agreement)契約を取り消す方向に動いていることは、先日もお伝えした。その論争の場が米連邦地裁に移され、両社の幹部が証言台に立ち、相手側の主張を打ち消す応酬を繰り広げている。

この問題の始まりは、クアルコムがチップ設計会社Nuviaを買収したことだ。同社は、iPhoneのAシリーズチップ設計者たちがサーバー用の高性能Armチップを開発するため設立した企業である。

が、クアルコムは買収した後に、NuviaによるOryonコアをPC向け「Snapdragon X Elite」やAndroid端末向け「Snapdragon 8 Elite」に導入している。ArmはこれがNuviaとのライセンス契約違反だと主張して、Nuvia技術に基づく全チップを破棄するよう求めている。

米Reuters報道によると、Armのレネ・ハースCEOはクアルコムがNuviaを買収したことで、年間5000万ドルを失う可能性があると証言している。クアルコムがNuvia技術につき支払っているロイヤリティ比率が、Nuviaが買収前に合意していた率よりも低いためだという。

かたやクアルコム側は、ArmがハイエンドPCチップ製造に乗り出そうとしているため、主にPC市場から自社を追い出そうとしていると主張。が、ハース氏は単に将来の選択肢を模索しているだけだと反論している。

さらにNuvia創設者であり、現クアルコム上級副社長のジェラルド・ウィリアムズ3世氏も、Armの技術は完成したチップ設計の「1%以下」にすぎず、ArmのSnapdragonチップへの貢献は最小限だと証言している。

まだ証言は継続中だが、Reutersは陪審員評決が「早ければ今週にも下される可能性がある」と報じている。

Armの2024年の収益は32億3000万ドル、クアルコムは390億ドルという企業規模から考えれば、5000万ドルとされる損失はいかにも少額に思われる。

またArmにとって最大のパートナーであり、現在Windows PC向けにArmチップを供給している唯一の企業のビジネスをかき乱すことも、あまり得策とは思えない。Snapdragon 8 Eliteも、今後は高価なスマホに続々と採用が予想されており、その出荷停止はArmに大ダメージを与えかねないだろう。

すでにクアルコムはArmに年間3億ドルのライセンス料を支払っており、完全に決裂することは考えにくい。ArmとしてはNuvia技術に関するライセンス料率を引き上げるための駆け引きに過ぎないかもしれないが、万が一の場合は、Windows PCやAndroidスマホ市場に大きな影響が及びそうだ。

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