新技術多数投入のフラグシップモデル
ソノヴァ、AIで“声と雑音を分離”させる補聴器「インフィニオ スフィア」。専用チップ独自設計で、処理性能追求
ソノヴァ・ジャパンは、同社補聴器ブランド “フォナック” の耳掛け型フラグシップモデル「フォナック オーデオ インフィニオ スフィア」を2025年1月に発売する。価格はプレミアムモデル「I90」が片耳710,000円、アドバンスモデル「I70」が512,000円(どちらも非課税)。また、専用充電器「フォナック チャージャーGo スフィア」は33,000円(税込)で用意する。カラーバリエーションは全10色。
ゲームチェンジャーになるという、新たなプラットフォーム「Infinio(インフィニオ)」を採用する補聴器。 “聞こえの可能性は無限である” という想いから、無限という意味の「Infinity」をネーミングに採用している。多数のAI技術を投入した “AI補聴器” だとアピールしている。
新たなメインチップ「ERA(エラ)」に加えて、サウンドプロセッシング専用チップ「DEEPSONIC(ディープソニック)」の2つを搭載することが大きな特徴。あえて1つのチップではなく2つ搭載させることで、より強力な処理能力を実現したという。
ERAは高速処理が得意なチップだとしており、1秒あたり5億5200万回の演算処理が可能。従来のルミティと比較してRAMの処理速度が74%向上したほか、ワイヤレス通信などの伝送パワーは6倍、Bluetooth等のストリーミングの伝送距離が2倍となっている。さらに特許アンテナによってBluetoothの接続性も向上し、通話時の途切れにくさも高めた。
DEEPSONICは同社が独自開発したという世界初のもので、サウンドプロセッシングだけを行う、ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)専用となるチップ。具体的には、マイクで拾った音を言葉と雑音に分離する役割を担っており、これによって「今までにないレベルの透き通った言葉」を追求。SN比は最大10dB改善した。
チップのサイズは4.08×3.19mmで、この中に4億2000万個のトランジスタと450万個のニューラル・コネクション、43.2MbitのRAMを搭載。これによって、1秒あたり77億回の演算処理回数と50MHzの処理速度を実現したとする。上述した通り、1つのチップにまとめる方式では、ここまでの性能を実現できなかったとしている。
このDEEPSONICによって、新プログラム「非常に騒がしい中での全方位からのことば」が利用可能になった。これまでも雑音を抑制・減衰させるものは搭載されていたが、新モデルでは言葉から分離した雑音を除去する。担当者によると、「言葉がそのまま残った状態で雑音だけが聞こえるような印象」とのことだ。
また新機能「全方位からの言葉の明瞭性」により、前方だけでなく後方からの声に対しても、声をクリアに届けることが可能になった。なおこの機能は、プレミアムモデルのI90ではウルトラズーム連携に対応するものの、アドバンスモデルのI70では固定指向性のみとなっている。2モデルは基本的に機能は同様だが、ほかの違いとして、I90のみ静かな場所で小声を強調するスピーチエンハンサーに対応する。
ストリーミング機能では、Bluetooth Classic、Bluetooth LE、HFP、A2DP、ロジャー、AirStreamをサポートする。Bluetoothのバージョンは5.3(従来は4.2)。現段階では使用できないものの、Auracastにもハードウェアで対応準備しており、将来を見据えた設計とのこと。通常の補聴器としての動作(オートセンス OS 6.0)とストリーミングの切替速度も向上した。
補聴器の処方時におけるフィッティングにも配慮。最初に装着した際の聞こえ方の印象を良くする仕組みとして、“耳栓の選択” をAI学習を用いて自動的に選択するシステムに対応。これには世界中の成功したフィッティングデータをAI解析して実現したアルゴリズムを採用したという。
また、処方時にユーザーの聞こえ方を調整するフィッティング処方式には、最新版のアダプティブ・フォナック・デジタル 3.0(APD 3.0)を採用。APD 3.0では、ヘッドホンで好まれるとされる音質指標のひとつであるハーマンカーブを採用することで、「着けたその瞬間から一瞬で好きになるような快適性と聞こえ」を目指したそうだ。
本体についてはIP68の防水防塵を取得しているが、これを超える基準を備えており、雨やプールなどの日常生活にも使えるという。135項目の個別試験で耐久性をチェックし、試験に費やした時間は合計1万時間におよぶという。具体的には、水/汗/油に強い撥水性のあるプラズマコーティングでハウジングを保護しつつ、内部回路は宇宙開発でも使われるというパリレンコーティングで保護。さらに電池収納部はフタの上からシーリングで完全密閉、マイク開口部も水やホコリ等が侵入しにくいように、上に2つ、下に2つの穴を設けている。
チップ追加によって消費電力は増えたものの、新たな充電池を採用することで、フル機能を使っても18時間の駆動時間を確保。オートセンス OSのみの場合は24時間以上利用できる。ほか、充電は別売の専用ケースを使用するかたち。ケースにはバッテリーが搭載され、両耳2回分の充電が行える。接触方式を採用することで40度の充電可能温度をサポート。フル充電までの時間は3.5時間となっている。
「全く新しい補聴器の構造を生み出した」
本日発表会が都内で開催され、同社代表取締役社長の眞鍋幸氏が登壇した。眞鍋氏は新製品について、「AI技術の新しい活用による全く新次元の聞こえ」であると説明。新たなDEEPSONICチップを加えた2チップ設計を「全く新しい補聴器の構造を生み出すことに成功した」と紹介し、「これによって補聴器は新たにさらなる進化の可能性を手にしたことになる」とアピールした。
また、実際に先行して試したユーザーからは、言葉の粒や会話の吐息が聞こえるなど、聞いたことがない音を聞いてこの世界が全く新しいものに見えた、というコメントを受け取ったとのこと。その感想を踏まえて「いよいよこうして、(インフィニオ スフィアを)日本に届けられることを、これほど誇りに思ったことはございません」「一人でも多くのエンドユーザー様に、この聞こえを届けていただきたい」と、強い意気込みを見せていた。