もしも山1個分ぐらいの重さの「極小」ブラックホールが存在したら

「原始ブラックホール」は惑星を空洞にし、誰かの身体を通り抜けているかもしれないとする研究報告

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地球を含むあらゆる惑星や恒星、それらが集合した銀河が無数に存在する宇宙の始まりは、極限まで高温高密度状態が爆発的な膨張状態に移行したビッグバンと呼ばれる現象だったとされる。

そして、ビッグバン直後の原始宇宙では、仮説として高密度かつ不均一な環境のなかで引き起こされた重力崩壊によって、原始ブラックホールと呼ばれる小さなブラックホールを形成した可能性があると考えられている。

新たに発表された研究では、まだ観測されたことのないこの原始ブラックホールが、もしかすると小惑星の中身を空洞にしたり、高速で移動するさなかに地球上に存在する物体に微細な穴を貫通させることがあるかもしれないと述べている。

ブラックホールと言えば、われわれがすぐに思い浮かべるのは、銀河の中心に存在するとされる超大質量ブラックホールだ。その質量は太陽数百万個から数十億個に相当すると言われている。超大質量ブラックホールは、周囲の天体を飲み込んで成長するブラックホールが他のブラックホールと連鎖的に合体して形成される。

恒星1個ぶんほどの質量しかもたないブラックホールも宇宙には存在する。恒星質量ブラックホールは、一定以上の質量を持つ恒星がその寿命の終わりに発生する重力崩壊から超新星爆発を経てブラックホールと化した天体で、太陽の数十倍~100倍程度の質量をとりうる。

だが、原始ブラックホールはそれらとはまったく異なり、惑星ほどの質量から、平均的な小惑星や地球上にある大きな山程度の質量のものまで存在すると考えられている。そしてそれは、宇宙空間の85%を満たすとされる暗黒物質、いわゆるダークマターを説明するものである可能性も指摘されている。

研究の共著者でニューヨーク州立大学バッファロー校の物理学教授デヤン・ストイコビッチ氏は、もしも原始ブラックホールが惑星、月、小惑星が形成される際に、その中に捕獲される可能性はあるのか、もし捕獲されたらどうなるのかと理論的に考えたことが、今回の研究を行うきっかけになったと述べている。

ストイコビッチ氏いわく、形成時に原始ブラックホールを内包した小惑星がもしも液体の中心核を持っていた場合、捕獲された原始ブラックホールは外側の固体層を残して、密度の高い液体の中心核を吸収するだろうと考えた。そして、別の小惑星などの天体と衝突したときに、タマゴの殻が割れるようにして、原始ブラックホールは外に脱出する可能性があるとした。

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残された殻の部分がどうなるかは、その惑星の組成や大きさによって異なるが、計算してみた結果、もしも地球の1/10ほどの大きさであれば、そのままの形を維持して宇宙空間を漂い続けること可能であることを発見したとストイコビッチ氏は述べている。そして「こうした特徴的な天体が見つかる可能性は低いが、それを探すのにそれほど多くのリソースは必要なく、もし発見されることがあれば、原始ブラックホールの最初の証拠という、計り知れないほどの見返りが得られるだろう」とした。そして「われわれは既成概念にとらわれずに考えなければならない」とも述べている。

なお、研究チームによると、原始ブラックホールがもしも液体の中心核を持たない天体を通過するようなことがあれば、結果はことなるかもしれないという。たとえば、もし質量1kgほどの原始ブラックホールが通過した場合、その軌跡にはわずか0.1ミクロンの穴が開くだろうと考えられる。人の髪の毛の太さが約70ミクロンと考えると、その穴の微細さがわかるだろう。

もしそのような現象が起こりうるなら、どこかに大きく厚い金属板やガラス板など高密度な物質を設置して長期間置いたのち、非常に微細な穴がどこかを貫通していないか調べることで原始ブラックホールの痕跡を発見できる可能性がある。ただ、研究チームはいまからその実験をしたところで、われわれの時間的尺度のなかで微細な穴が開くのを発見できる確率は、計算上低いとした。

そして、そのような微細な穴を発見できる最も可能性の高い方法は、数十億年前からある岩石を調べることだとしている。ただ、それでも地球を原始ブラックホールが通過した可能性は1/1000000程度だという。

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今回のような研究分野はいま、ダークマターの説明などいくつかの問題を説明するのに苦労しているという。この研究分野に革新をもたらした量子力学と一般相対性理論はもう、約1世紀も前のものだ。「地球上で最も賢い人々が数十年の間これらの問題に取り組んできましたが、まだ解決できないことがある」「おそらくまったく新しいフレームワークが必要になっているのだろう」とストイコビッチ氏は付け加えた。

ちなみに、仮に原始ブラックホールがわれわれの身体を貫通した場合はどうなるかという疑問についても研究者は回答している。その説によれば、もし原始ブラックホールが発生して人間の組織を貫通したとしても、それは非常に高速に移動するためほとんど怪我をすることはないのだそう。

もし野球ボールが窓に当たれば窓ガラスは粉々に砕け散るが、銃弾が窓を貫通する場合は運動エネルギーが窓ガラス全体に伝わる前に弾丸が通り抜けてしまうため、小さな穴が開くだけで済むのと同じようなものだとストイコビッチ氏は説明している。もしかしたら、針で刺されたようなチクッとした痛みはありそうにも思えるが、誰も経験したことがないため、わからない。

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