宇宙にもインターネットはあります
宇宙開発分野にも高まるハッキングの懸念。米当局は中ロの活動を警告
米国会計検査院(Government Accountability Office/GAO)は、他国からの悪意のあるサイバー活動のなかには「宇宙船の制御不能」状態を引き起こす可能性が含まれていると述べている。
現在、宇宙開発競争はふたたび活発化しているさなかだが、地球の大気圏の外側も、かつてのアポロ計画時代からは見違えるほどに情報ネットワーク化が進んでいる。しかし、宇宙ステーションや宇宙船、人工衛星のシステムが高度かつ複雑になるにつれ、地上と同様にサイバーセキュリティ上の脅威に対する懸念も大きくなりつつある。
CNBCは、米GAOが、修理などのために物理的にアクセスすることが困難な宇宙空間における宇宙機の運用には独特の制約があり、悪意あるサイバー活動が行われれば、ミッションデータの損失、宇宙システムやコンステレーションの寿命短縮または能力の低下、宇宙船の制御が奪われるといった可能性があると述べたと伝えている。
宇宙空間において、地上との間の通信経路は脅威の影響を受けやすい。書籍『Cyber-Human Systems, Space Technologies, and Threats』の共著者であるウェイン・ロンシュタイン氏は、「多くの点で、地球上の重要なインフラに対する脅威は、宇宙空間でも脆弱性をともなうい可能性がある」と指摘している。
さらに、今後宇宙開発計画にAIが統合されるようになると、より少ない人力監視のもとでより多くの意思決定が可能になることが期待される一方で、より高度なサイバー攻撃リスクへの懸念も増加している。
例えば、NASAは惑星探査機に搭載したAIによる科学サンプル取得と分析の実現を目指しているが、専門家のなかには、人力での監視の目が少なくなることは、これらのミッションにおける原因不明の、潜在的に甚大なサイバー攻撃に対して脆弱になる可能性があると指摘した。
悪意のある攻撃者が、AIにイレギュラーなデータを織り込むデータポイズニングと呼ばれる手法が用いられれば、探査機は正常な分析ができなくなる。逆に、攻撃者がAIモデルをリバースエンジニアリングして機密情報を盗み出したり、ミッションの妨害や制御の強奪などを実行する可能性も考えられるという。
ロンシュタイン氏は「AIシステムは、悪意のある入力によってAIを欺き、誤った判断や予測をさせるよう設計された敵対的攻撃など、特殊なタイプのサイバー攻撃を受けやすい可能性がある」とも述べた。そうなれば、悪意ある者が宇宙システムに対して高度なスパイ活動や破壊工作を行うことを可能にする可能性もあり、ミッションのパラメータを変更したり、機密情報を盗み出すことも考えられるため、ミッションの完全性と機能性維持のために宇宙機に搭載されるAIシステムの冗長化を推奨している。
AIは悪用されれば、人工衛星やその他の宇宙機器の制御を乗っ取ったり混乱させる高度な兵器や対宇宙技術に利用される可能性がある。米国政府はこうした懸念への対策を強化するため、2023年には宇宙空間を重要インフラ部門として指定することの重要性を強調し、衛星運用者のサイバーセキュリティ・プロトコルの強化を促していた。
また、米中のライバル関係は地上だけではなく宇宙空間でも展開されているが、技術的優位を得ようとする争い(この争いには、米中だけでなくロシアやインドも含まれるだろう)に、サイバー攻撃のリスクが懸念されていると米国の専門家は述べている。
日本ではすでに今年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に対してサイバー攻撃が複数回あった。米国政府は今年、ロシアや中国のスパイが、SpaceXやBlue Originなど民間航空宇宙企業から機密技術やデータを盗み出そうとしていると警告を発した。さかのぼれば、2022年には、SpaceXの衛星コンステレーションであるStarlinkへのハッキングがあったとされ、イーロン・マスク氏はロシアによる攻撃だったと主張していた。
このようなハッキングは今に始まったわけではなく、10年前には米海洋大気庁(NOAA)の気象システムに中国から侵入があり、宇宙から地球上の環境をモニタリングするシステムが危険に晒された。
中国やロシアからのハッキング行為は米国のミッションを妨害するだけではなく、知的財産を盗み出すことも目的にしていると言われている(2022年には中国のハッキンググループがロシアの航空宇宙産業を標的にしたこともある)。
GAOの幹部であるウィリアム・ラッセル氏は、「現在進行中の宇宙開発競争とそれに関連する技術は、今後もバイアサートのようなサイバー攻撃による影響を受け続けるだろう」と述べている。
なお、宇宙におけるハッキングやサイバー犯罪の可能性が高まるにつれ、巨大テクノロジー企業も宇宙におけるセキュリティの分野に進出が著しい。Microsoft、Amazon、Google、Nvidiaといった企業は、その専門的なリソースと高度なサイバー能力を持つことから、米国宇宙軍や国防総省に採用されるケースが増えている。マイクロソフトは、宇宙情報共有分析センター(Information Sharing and Analysis Center/ISAC)の創設メンバーとして加わっており、米宇宙軍と提携し宇宙における紛争に備えるために、Azureクラウド技術をはじめシミュレーション技術、AR技術、データ管理などで最新技術を提供しているとCNBCに述べている。
Google CloudやAmazon Web Services(AWS)なども、人工衛星や宇宙ミッションによって生成される膨大な量のデータを保存・処理するためのクラウド・インフラストラクチャを提供している。
Nvidiaは、GPU技術を衛星画像やデータの処理・分析用としてている。ロンシュタイン氏は、AI技術が宇宙ミッションにおける画像処理、異常検知、予測分析などを強化する力があるとしつつも、宇宙事業におけるテクノロジーへの依存は、安全上の利点として限界があり「自動化されたシステムへの依存度が高すぎると、そのシステムが誤作動したり、予期せぬ問題に遭遇したときに、取り返しが付かない失敗につながる可能性がある」とした。
またテクノロジーを多用しすぎると、エンジニアの応用力やオペレーターのスキルの低下などの弊害も懸念される。これらはいずれも、緊急時やシステムの不具合が出たときに、手動操作で乗り切ることを困難にするかもしれない。最新技術の導入とともに、旧来の手法やスキル、そして知識を維持することが重要と言えそうだ。
- Source: CNBC