温暖化による海面上昇はツバル以外にも深刻な打撃
ツバル「国家メタバース化計画」推進中。気候変動で沈み行く国を残すため
ツバルは、2022年の第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で発表した、国全体をメタバース化する計画を推進している。ツバルでは気候変動による海面上昇によって国全体が水没しつつあり、今後数十年のうちに、住民はどこか他の土地へ移住せざるを得なくなると言われている。
この問題に対して、ツバル政府は家屋からビーチ、木々の1本1本に至るまで、すべてをデジタルコピーしたバックアップ国土を作り、メタバースとして存続させる計画を進めている。ツバルはこれまでに、LiDAR技術を使用して124の島と小島の3Dスキャンを完了し、現在は海底通信ケーブルを建設してデジタル接続を改善、計画を実行するために必要な帯域幅を確保しようとしている。
また、2024年3~4月には、地図やその他地理データのオープンアクセスを支援する国際的非営利団体「Place」が、ツバルの首都における物理的特徴をマッピングする作業を開始した。この取り組みではドローンと360度カメラを使って、空中と地上、両方からツバルの街並みを記録した。このデータは、Googleストリートビューよりもはるかに高解像度で現実的なメタバース空間の構築に用いられるはずだ。
政府は国全体のバーチャルレプリカにおいて、国の美しさや文化を継承し、1万1000人いる国民の法的権利までもが、今後何世代にもわたってこの仮想世界で守られるようになることを期待しているという。
2022年にこの計画を発表した際の動画では、気候変動によって最も早く水没すると考えられるツバル最小の島Te Afualikuをバーチャルに再現した様子を公開していた。この動画では、ツバルのサイモン・コフェ外務大臣が「われわれの土地、われわれの海、われわれの文化は、われわれの国民にとって最も貴重な財産だ。われわれは現実世界で何が起こっても、それらを危害から守るため、すべてクラウドに移行する」と述べていた。
このメタバース化計画は、ツバルの島々をバーチャル空間にコピーするだけでなく、国民にとっての思い出の品々から先人たちの物語、祭事などの文化的かつ無形な文化遺産にいたるまでをデジタル化していく考えだ。2023年のCOP28における報告では「ツバルの魂そのものを伝えるように設計された」アーカイブを作成するとコフェ氏は述べていた。
一方で、コフェ氏はメタバース化計画には極めて現実的な要素も含まれているとしている。ツバルは、物理的な陸地の喪失が起こったときに以下にして自国の主権を維持するかという課題に取り組んでいる。
現在の国際法は、自然の変化によって国土や居住可能性が喪失するという問題を想定していおらず、主権国家の定義には明確に定められた領土とそこに定住する人口があることと定められている。つまり、現行のままでは、ツバルには国として存続する未来がない。
そこでツバル政府は、メタバース内で国家の境界を守るだけでなく、政府が機能し続けるためにブロックチェーン上に保存されるデジタルパスポートの作成を目指しているという。このパスポートには、選挙や国民投票の実施から出生、死亡、結婚の登録まであらゆる国民生活におけるあらゆる事柄が記録される。最終的には、ツバルはこのプロジェクトを通じて、現代の温暖化が進み、ますますオンライン化が進む世界のニーズと能力により適した、新たな国家モデルが提供可能になることを期待している。
ただ、ツバルのこうした動きには懐疑的な意見もある。国土のデジタルツインを作るだけならまだしも、1万数千人とはいえ、全国民がそこにアクセスして交流できる能力をもつVRサーバーを動かすには、どれほどの処理能力が必要になるだろう。このような環境を作り維持するために消費されるエネルギーがどれほどで、排出されるCO2はどれほどになるだろうか。
ただ、NASAの試算によれば、現在のペースで温暖化が進めば、ツバルの国土の大半は2050年までに満潮時の海水表面より低くなってしまうのだという。そして今世紀末までに、年間100日以上が洪水に見舞われることになる。洪水以外にも海水の浸入による環境の汚染や激しさを増すサイクロンによる災害なども発生するだろう。
先進国は依然として温暖化を止めるほどCO2排出量を削減できていないことを考えれば、島々をデジタルツインとして残し、メタバースとしてそこに帰れるようにすることは、ツバルを離れざるを得なくなった人々が互いに、そして失った土地や遺産とのつながりを保つための手段として機能するのかもしれない。
なお、ツバルはメタバース化計画を進めつつも、島々そのものを救う努力を諦めたわけではない。例えば、政府は島沿岸の干拓化に数百万ドルを費やしている。過去2年間で、いくつかの島に洪水被害を受けないように土地形状が改善され、住宅、インフラ、その他の必須サービスのためのスペースが確保されている。別のいくつかの島では、防波堤の建設により、家屋、学校、病院、農地、その他の文化遺産への潮の浸入を防いでいる。
またツバルは現実的な動きとして、オーストラリアとの間で毎年ツバル人280人がオーストラリアに移住することを認める条約を、2023年に結んだ。移住したツバル人には、オーストラリアでの生活、就労、学習を可能にする新しいビザが与えられ、市民権取得の道も開かれる。